男に異存はない。包茎の話。

遅かりし性教育―子供達の未来のために

2017年10月31日

性の本が学校にやってきた

 小学6年生の時、図書室の片隅に、ある先生が運び込んで並べられた性の本、数冊――。それらの存在は、たちまち、“ハダカの絵のある本”、“エッチな本”と揶揄され、児童たちのあいだで評判となり噂が広まり、一時期図書室は、その本らを囲んで大賑わい――となった光景を思い出す。そしてその後も性の本は、あまりの人気でいつも誰かに貸し出された状態となり、本棚は空っぽ。昼休みに図書室を訪れても、なかなかそれらの本を手に取って読むことができなかったという苦い経験もまた、私の記憶に刻み込まれている。
 
 その思い出の性の本とは、1984年ポプラ社刊、“女の子と男の子の本”シリーズ全5巻であった。全5巻のうちの『女の子と男の子の本2 ふしぎ!女の子のからだとこころ』(文・小形桜子、三井富美代、江崎泰子/絵・おかべりか)と『女の子と男の子の本3 ふしぎ!男の子のからだとこころ』(文・小形桜子、三井富美代、江崎泰子/絵・おかべりか)が児童に大人気であった。

 性の本の“品薄”状態が続くなかで、頭が良かったのはクラスメイトのO君だ。O君は誰もいない放課後の図書室におもむいて、貸し出されていない際にそれを熱心に読んだ。しかも誰も居ないから、自分がそれを読んでいることを誰かに冷やかされることもない。これは私とO君だけの秘密だった。私はO君を傍で見ていて、本当に熱心に、真剣な面持ちで性の本を読んでいるなと思った。
 

中身をほとんど理解していなかった私

 私自身はというと、それら性の本に対し、関心がまったくなかったというわけではないが、他の子供達よりも反応が無頓着で、確か一度だけ一冊借り、家でこっそり読んだことを憶えている。男の子版の『女の子と男の子の本3 ふしぎ!男の子のからだとこころ』だ。本当は女の子版もこっそり家で見たかったが、それを借りる勇気がなかったのだ。それを借りたのをクラスメイトの誰かにバレたら、何を言われるか分からないという怖さもあったから。
 ともかく『女の子と男の子の本3 ふしぎ!男の子のからだとこころ』を家で読んだ。確かにハダカの絵があってびっくりした。けれどもその時は、何が何だか頭がパニックになり、ちょっとエッチなイラストに興奮したり、チン毛が生えた生えないの学生の体験談的文章をかじって読んだ程度で、本の全体の内容を理解するには至らなかった。これが私の、大きな失敗だった。

 1984年ポプラ社刊の“女の子と男の子の本”シリーズは、当時としては画期的な、とても親切丁寧な図と文章で構成されている性の本で、思春期の子供達が読むには相応しい内容だった。しかし、あの時の私には、クラスメイトのO君のように、真剣な心持ちがなかったために、単にこれらの本を興味本位でとらえることしかできなかったのだ。小学6年というとても大事な頃だったにもかかわらず――。以下、『女の子と男の子の本3 ふしぎ!男の子のからだとこころ』の目次を列記しておく。

はじめに
第1章 男の子のふしぎ探検
 あなたは男の子
 思春期ってなんだろう
 新しい自分との出会い
 ぼくに“毛”がはえてきたときのこと
 からだの変化
  ・あなたの性器のしくみ
  ・精通―はじめての射精
  ・初めて射精したときのこと
 ペニスのしくみ
 マスターベーション
 女の子のからだのしくみ
  ・月経のしくみ
第2章 おとなになるということ
 初恋
 性のめざめ
 ポルノグラフィー
 性交について
 性欲について
 性の目的と避妊
第3章 あなたの未来と男の子の性
 「男らしさ」ってなんだろう
 男の子と家の中の仕事
おわりに

 

「包茎」についても書かれてあった

 「包茎」については、第1章の「ペニスのしくみ」のページで記されていた。内容を要約する。
 まずペニスのしくみとして「勃起」という現象についての解説。それに付随して「亀頭」のこと。そして「射精」について。それから、ペニスはひとりひとり形が違い、思春期の頃はペニスも成長するので、ペニス全体が大きくなり、「亀頭」の形もはっきりとしてくる、ということ。
 皮膚を引っ張ると、「亀頭」が出てくるようになる。そのうち、引っ張らなくても「亀頭」が出たままになる。「亀頭」が全部出る人もいれば、半分しか出ない人もいる。そういう状態を「包茎」という。「勃起」しても亀頭が出てこなかったり、痛かったり、皮膚がとまって元に戻らなかったときは、お医者さんにみてもらいましょう、皮膚をちょっと切るだけでかんたんになおりますよ、といった記述。
 さらには、「亀頭」と皮膚の境目は垢や汚れが溜まりやすいので、お風呂で洗う習慣をつけましょう。「亀頭」は敏感なので、洗うときに「勃起」して困ってしまうかも知れないけれど、気にしないで清潔を心がけましょう、といった具合――。
 
 小学6年生の私は、この「ペニスのしくみ」についてもろくに読んでいなかったのだと思う。皮膚(包皮)を引っ張ると「亀頭」が出てくるという知識を、その時覚えた記憶がない。「包茎」について初めて知ったのは、中学3年になってからで、言わば自分の実地体験によってであった。高校の時にある先生が雑談的に「包茎」について指導してくれたことはあったが、小学・中学では「包茎」のことは何も教えられてこなかった。
 結局、この性の本をしっかり読んでいればよかったのだが、せめて小学校で「包皮を剥いて洗いましょう」くらいのことは児童に教えた方がいいと思う。当時としては、この性の本を、性の授業の副読本的に扱ったことは一度もなかったし、小学校で性について先生らが語ってくれたのは、ほんのわずかなこと。男子は男性ホルモンの影響でカラダのあちこちが大人らしくなり、精子を作るようになる。女子は月経が始まる、ということくらい。例の如く、男の子と女の子を別々の教室に分けて、だ。
 

思春期に何を学ぶべきか

 『女の子と男の子の本3 ふしぎ!男の子のからだとこころ』で本当に言いたいこと、大事なことは、第3章の「あなたの未来と男の子の性」で記されている。これを学ぶための大前提として、第1章と第2章がある。第1章で思春期の性腺刺激ホルモンによる、“いま自分のカラダに起きていること”、“これから自分のカラダに起こること”が述べられ、第2章では、そうしたカラダと向き合いつつ、性について何を知っておかなければならないかが述べられており、これら、語られる必要な知識は、言わば「未来の自分」への予備知識であって、人は皆、それぞれのペースで成長していくのだという道筋の示唆である。そして第3章「あなたの未来と男の子の性」では、以下のような内容が語られている。

 ――「男らしさ」とは何か。それは男の子が男らしく生まれてくることではないのだ。赤ちゃんのときから、その環境の中でなんとなく身に付いてしまうものがある。例えば、男の子がロボットや自動車の玩具で遊んだり、男の子らしい服装をしたりしていると、周りが「男の子らしい」と言ったり、自分も自分を「男の子なのだ」と思うかも知れない。でももし、赤ちゃんのときから、女の子のように育てられたら、きっと女の子らしくなったに違いない。
 将来大人になって、男の人は外で働く、女の人は家で家事をして働く、なんていうことは決まっていることじゃない。女の人がふつうに外で働いていい、男の人がふつうに家事をやっていいのだ。男の役割、女の役割があるなどと、決めつけて考える人が昔は多かったけれど、今はそうじゃない。男の人が料理を作ったり掃除や洗濯をしたりするのは、ふつう。「男らしくない」なんていうこととは関係なく、自分が好きでやっていたり、奥さんと話し合って決めた役割分担であるだけのこと。育児は女の仕事、男は外で働くものだ、と決めつけるのはまったく古い考え。自分のことは自分でやるというのが基本でふつう。それから、家族みんなで役割を決めて仕事を分担することはとても大事。
 
  そう、勘違いしてはならないのだ。性は、男が男になるための話ではなく、また女が女になるための話ではない。
 まず自分が、自分の性のことをよく理解するということ。そして、カラダを清潔にし、健康でいることを保持し、将来のパートナーと、よりより家庭生活を共有するための、知識と思考を学ぶことだ。いくら自分の性を理解したとしても、カラダを汚くし不健康であったり、俺は男だから育児も家事もやらないでいいんだ、それは女のやることだ、といった思考を持っていたとしたら、どうだろう。さらにまた今は、男性が男性を愛し、女性が女性を愛してパートナーとなることが社会的に理解されはじめている。だから、「男らしく生きる」とか「女らしく生きる」といった表現は、もう意味不明で死語になっていくだろう。それがそうなること、その壁を乗り越えていくのが、性教育の役割ではないだろうか。
 
 最後のまとめ。
 子供達は、まず自分のエッチな興味本位でしか、こういった性の本を見ない。むろん興味をまったく示さないよりはましだが…。性の本を見ても、特に第3章に書かれてあるようなことについて、ほとんど関心がなく、読みたがらないかも知れない。そこはしっかり、大人がケアして指導し、「本当は何が大事か」を読み解いてあげるべきである。
 ひとりひとりの人生という永い未来へ向けて、より広い視野で思考させ、自分の歩むべき姿をイメージさせる。しかし現実には、なかなか大人の方がだらしなく、子どもに性の語りを拒む人が少なくないのだろう。自分が自分らしく生きるために、その基本的なことが、『女の子と男の子の本3 ふしぎ!男の子のからだとこころ』の性の本では示されていた。何もこの本に限ったことではない。大人は勇気を持って子供たちのために性を語り、こういった本を書棚に置いておくことは必要だと思う。大人が性を語らず、子供達が間違った知識で誤った行動をとったとしたら、それこそ深刻ではないか。大人は子供達と自分の性について、真剣に考えるべきだ。

〈了〉
性の本『ふしぎ!男の子のからだとこころ』

性の本『ふしぎ!男の子のからだとこころ』

新しい自分との出会い

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ぼくに“毛”がはえてきたときのこと

ぼくに“毛”がはえてきたときのこと

からだの変化

からだの変化

「包茎」に関する記述

「包茎」に関する記述

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