男に異存はない。包茎の話。

新聞記事が伝えた性教育の「性交」不適切問題

2018年5月10日

「性交」や「避妊」を中学生に教えるのは羽目を外しているのか?

 日本語には、「羽目を外す」という悪い言葉がある。調子にのって度を過ごすことの意で、馬の口にはめさせる「馬銜」(はみ)の転(馬銜を外して馬を自由にさせる)であるともいう。日常、結果論的に「羽目を外してしまった」というのとは別に、「今から羽目を外す」意図を持って主体的に自らの「馬銜」を外してしまう大人や若者がいたりする。これが酒乱であったりセクハラであったりするから、たちが悪く、非常に危険だ。あらゆる機会や場所において、大人であれ子供であれ「羽目を外していい」ことなど、どこにも無いはずである。また、そうした自らの意志で「羽目を外してしまう」人がいたら、絶対に近づかないことだ。被害を被ること必至だから――。
 
 性教育の現場において、「性交」「避妊」を中学生に教えるのは、教育者が主体的に「羽目を外した」からなのか? ここ最近、新聞の片隅を大いに賑わせていた感があり、私が刮目し続けたのは、区立中学校が「性交」「避妊」といった言葉で性教育を行ったことに対し、東京都議の委員会が「不適切」だとして区の教育委員会とその学校を指導したことについて。ここではその問題を取り上げてみたい。
 

新聞記事が伝えた性教育の「不適切」問題

 2018年3月24日付の朝日新聞朝刊のこの記事を読み、教育に危機感を抱いた人は果たしてどれだけいるだろうか。新聞記事の見出しは、「中学の性教育に『不適切』 都教委自民議員指摘受け指導へ」である。これは、3月16日の都議会文教委員会で自民党の古賀俊昭都議が、足立区の区立中学校の性教育の授業の内容を問題視し、都教委が調査したというもの。不適切な授業をおこなわないよう区教委を指導した、という記事。
 都教委が問題としたのは、中学校が3月5日の総合学習の授業でおこなった内容で、高校生の中絶が増えていること、性感染症を防ぐために有効なコンドーム使用による避妊率が9割を切っていることを生徒に伝え、安易な「性交」を避けることや正しい「避妊」の知識を伝えたというもの。自民党の古賀俊昭都議は、「性交」「避妊」「中絶」の言葉は中学保健体育の学習指導要領に記されていないとし、中学生には「不適切」であるとして指摘した。また、「中学生の段階で性交や避妊を取り上げるべきではない」とも述べている。
 一方、指導された側の区教委は、「不適切だとは思っていない」とし、また中学校の校長も「授業は自信を持ってやっている。自分やパートナーを大切にすることを伝える内容で、避妊方法に触れるからといって、性交をしてもいいとは教えていない」と話した。
 
 朝日新聞の記事、あるいはこの性教育の問題には反響があった。一般の方からの投書が、同月28日と30日に投書欄で掲載されたのだ。28日付では、元日本語教師の方からの投書で「性教育 真っ向から取り組んで」という見出し。30日付は、看護師の方からの投書で「性感染症のこと身近に語ろう」。どちらの投書の内容も、大まかにまとめると、今の日本の性教育の授業は欧米の学校と比較して不十分であり、必要不可欠な正しい知識を生徒に伝えるべきだ、というもの。私もこれらの投書の意見及び提案に、大賛成である。
 

性教育と指導要領の見直しキャンペーンが始まった

 さらにこの問題に関連した朝日新聞の記事を追ってみることにする。
 4月3日付では、「性教育への指導『不当介入』抗議 都教委に教職員ら」という見出しの記事が掲載される。先述の都教委の「不適切」とした指導に対し、性教育に取り組む教職員らと医療関係者らによる「“人間と性”教育研究協議会」が2日、「都議と都教委の教育への不当介入に強く抗議する」という声明をまとめた、という内容。
 4月7日付にも「性教育に指導 現場困惑 『避妊と言わず 生徒学べるのか』」という見出しの記事が載る。「“人間と性”教育研究協議会」が6日、都教委に区教委への指導の中止を申し入れたという内容で、ネット署名サイト「Change.org」では、性教育や指導要領の見直しを求めるキャンペーンが始まった旨も記され、キャンペーン発起人のNPO法人「ピルコン」の染矢明日香代表の「性交や避妊という言葉を使わずに性教育を行えということ自体に無理がある」というコメントも載った。
 
 4月16日付の朝日新聞朝刊では、フォーラム「性教育 どこまで」という大きな記事が掲載された。足立区立中学の性教育の授業づくりに実際に携わってきた、宇都宮大学の艮香織准教授の説明による、その授業内容が紹介された。内容を私なりに要約してみるとこうである。
 

①総合学習の時間を使い、1年次では「生命誕生」、「女・男らしさを考える」、2年次では同性愛などに触れる「多様な性」、3年次では「自分の性行動を考える」、「恋愛とデートDV」という授業をおこなってきた。
②今回問題視されたのは3年の「自分の性行動を考える」授業。この授業では、生徒同士で「高校生の性交は許されるか」を討論。10代の人工妊娠中絶の問題や産んだ子供の遺棄事件の新聞記事を教材として活用。中絶についてや避妊方法について生徒に説明。性交をしないことが確実な避妊方法であること、困った時は相談機関があること。
③生徒にアンケートを採ると、授業前は半数近くが「2人が合意すれば、高校生になればセックスをしてもよい」と回答するが、授業後ではその割合が10ポイント以上減少。艮氏は、正しい知識を伝えることで生徒らが性行動に慎重になることが分かる、とした。

 
 4月27日付の朝日新聞朝刊の記事は、「中学の性教育『指導要領超えるなら保護者了解を』都教委」という見出し。26日に開かれた都教委の定例会により、今後の性教育の在り方として、指導要領を超える内容については、事前に保護者の了解を得た生徒に限り、個別やグループで授業をおこなうのが相応しいとした。
 足立区立中学は3月の授業において、事前に保護者会を開いたり、保護者宛に通知して説明していたが、都教委は保護者の意向確認ができていなかったとしている。同日には足立区で弁護士や元教員、地域住民らを集めた緊急集会を開き、授業の内容は妥当と判断し、都教委の「不適切」答弁や、行きすぎた「指導」に強く抗議する旨採択した。
 

「性交」「避妊」は子どもに教えるべきこと

 この一連の報道で見えてきたことは何か? それは、小中高の学習指導要領で「性交」が扱えないことで、学校の教育現場では、それを「性的接触」という曖昧な言葉で代用もしくは補ってきたことである。
 しかし実際、「性的接触」とは何かということは、大人なら分かるように、広い範囲の性行為を示している言葉であって、そのうちの「性交」のみを指しているわけではない。曖昧な教え方によっては、「性交」以外の「性的接触」によっても妊娠するかのような誤解が生じかねないのである。やはりパートナー同士が愛し合っておこなう性行為のうちの、妊娠の可能性が伴う「性交」については、「性的接触」という言葉でごまかすのはやめて、素直に「性交」として教えるべきなのである。ごくごく当たり前のことなのに、先進国であるはずの日本の学校教育では、なおざりなままだ。
 
 中学校で教える男子の「射精」、女子の「月経」は、妊娠が可能となった身体の成長(思春期における身体の変化と内分泌機能の発達)を学ぶのだから、妊娠のプロセスである「性交」を教えないことには、性感染症を防ぐ方法にも手段にもつながらない。したがって、「避妊」についても、また「人工妊娠中絶」についても、「射精」と「月経」を教える同じ中学校のうちに教えることが望ましいと考えるのが、妥当ではないか。
 
 ただし、教える学校は、専門家を介して準備をととのえ、保護者との連携を図ったうえで、愚直に真面目に生徒と向き合ってもらいたい。怖いのは、オフレコ的な、先生個人の勝手な意見を述べた授業や指導である。ごまかしや曖昧さが講じて、悪ふざけや冗談交じりで大人(特に先生や親)が子どもに「性交」を教えるのは言語道断、もってのほかである。綿密な指導計画もなく、冗談交じりの安直な授業で「性交」を教えると、生徒らに「性交」とはパートナー同士が羽目を外す行為なのだと勘違いする恐れがあるからだ。
 中学生に真面目に「性交」を教えるのは、決して「羽目を外した」ことではない。中学生という肩書きはあっても、あっという間の年月で大人になってしまう年頃だ。以下、私の言いたいことは、既に「貧しい性教育―新旧・保健体育の教科書を読み解く」で述べてあるので割愛する。信頼できる大人がしっかりと教えるべき大事なことである。

〈了〉
中学の性教育に「不適切」

2018年3月24日付朝日新聞朝刊

性教育 真っ向から取り組んで

3月28日付一般の方からの投書

性感染症のこと身近に語ろう

3月30日付一般の方からの投書

性教育への指導「不当介入」抗議

4月3日付朝日新聞朝刊

性教育に指導 現場困惑

4月7日付朝日新聞朝刊

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