の話。
寝た子を起こせ。これは一生に関わる大事なことなんだから。

子どもたちに正しい性の知識を

2018年5月22日

学校の性教育で「性交」を学べていない代償

 その後、ぞくぞくと性教育問題に関する記事が、朝日新聞朝刊で見受けられた。多くの人達がこの問題を真剣にとらえ、読者の関心を高めているのが分かる。
 5月13日と14日付朝刊には、フォーラム「性教育どこまで」と題し、13日の初回は「現場の葛藤」、14日は「取り組みは」というサブタイトルで、学校の現場での性教育の在り方について触れられていた。特に紙面では、朝日新聞デジタルのアンケートに寄せられた意見をいくつか取り上げており、「性交」「避妊」「人工妊娠中絶」などを中学校で教えたがらない現行の性教育に対する、読者及び専門家らの不安と危機感が感じられる内容となっていた。
 
 13日付の記事の中央に記されたアンケート結果(朝日新聞デジタルのアンケートで4月25日~5月8日に寄せられた計792の回答)をまず見てみる。回答者の性別はほぼ半々といったところ。年代は20歳未満と60代70代以降は少なく、ほとんど20代から50代の人の回答である。これはネットを利用したアンケートなので、ネット上の新聞記事を読みつつ、それを積極的に活用する頻度が比較的少ない20代未満の回答者数が極端に少なくなってしまうのは致し方なく、そういう意味では各学校でのこの手のアンケート調査の必要性は切迫して感じられた。
 アンケートの「中学校の性教育ではどの程度まで教えればいいと思いますか?」の質問。回答は選択式になっており、「性感染症のリスクや避妊、人工妊娠中絶についての知識」が回答者数222と一番多く、2番目に多いのが「セックス(性交)に触れて、受精、妊娠、出産について」(215)、3番目が「性的被害の事例や被害を受けた際の対処法」(175)となっている。「コンドームの使い方など避妊の方法」は69と4番目だ。

 もう一つの質問も挙げられていた。「あなたは『妊娠』や『避妊』について十分な知識があると思いますか?」に対し、「ある」と答えたのが572、「どちらともいえない」が151、「ない」が69。この結果だけでは補足し切れていないが、この572の半数以上の「十分な知識がある」と思った人達が、どこでその知識を十分に得たかが問題である。
14日付紙面掲載のアンケート調査結果を見てみると、前の2つの質問の回答の、理由のようなものが透けて見えてくる。
 「あなたが『セックス(性交)』という言葉とその意味について知ったのはいつですか?」の質問。「小学校高学年」と答えたのが346と最も多く、次いで「中学校」が293。「それは誰(どこ)から知りましたか?」の質問では、「友人・先輩・後輩」が354と最も多く、次いで「新聞・雑誌・漫画・書籍」が251。「学校の授業や教科書」は3番目に多いが極端に少なく51。
 このことから、思春期に差し掛かった小学校高学年から中学校の頃にかけて、仲間内では「セックス(性交)」について何らかの形で語り合っていることが窺える。もし、この語り合った内容が、正しい知識に基づいたものでなかったとしたらどうか。それが非常に疑わしいのであれば、やはり中学校で正しく「セックス(性交)」について教えることは必要であろうし、それに伴って「避妊」「人工妊娠中絶」についても教えることは当然のことであろう。
 
 14日付紙面では、性教育を自治体ぐるみでおこなっている旨の具体例が記されていて、たいへん参考になった。
 秋田県では、2000年から医師による「性教育講座」を始めた。青森県では県内の地域ごとに産婦人科医を配置して県立高校で性教育を取り組んでいる。また、長野県では、2016年に「長野県子どもを性被害から守るための条例」を制定し、人権教育や性教育を充実させるため、教員向けの性教育の研修をおこない、地域では専門家による大人向けの講演会を開く際の助成制度を設けているという。子どもに教える側の大人の知識を、まずしっかりと養成しようという考え方だ。願わくば、現行の日本の性教育が「性交」を教えないことで不十分であることを認識し、さらに活発な議論を重ねたうえで、良心的により良い性教育がおこなえるよう各自治体の協力と支援を促したいものだ。

子どもらが気軽に性を知り得る・語り合える場の環境づくり

 ここからは私の個人的な意見である。
 教育の現場で性教育や性の相談を満遍なく実施していくことの重要性は再三述べてきた。一方で、個人が自主的に知識を学んでいく環境も、学校や地域ぐるみでととのえてもらいたいと願う。
 思春期に差し掛かった子どもたちが、あまり親に相談できない(親に相談したくない)こと、すなわちそれが、「人を好きになる」ことや「性のこと」であるが、それらに興味を持ち始めるのはごくごく自然なことだ。ただし基本的には、性に興味を持つことはエロい恥ずかしい、と思いがちで、自らそこに触れたがらない子どもたちもいる(もし、大人である先生らが同じ様な勘違いで「性交」を子どもたちに教えないのだとしたら、最悪だ)。これが結局、不可欠な知識を得ないまま、将来、無防備にパートナーと性交渉し、望まない妊娠で苦しむ、という事態につながっていく。

 まず何よりも、大人たちが、性を語ることをエロいこと、とか、恥ずかしいといって避けてしまったり、自分の子供がそういった質問を投げかけても、親の方が黙らせてしまうような悪しき態度や風潮を、いい加減にやめなければならない。そして子どもたちに、性に興味を持つことはちっともエロいことでも恥ずかしいことではなく、命に関わる大切なことなのだということを、小学生低学年のうちに教えることである。
 子どもたちが学校の図書室に、あるいは親と子が一緒になって地域の図書館に、そういった所に行って、性に関する本やそのたぐいのリーフレットを気軽に読むことができれば、どれほど救われるだろう。そうした学校の図書室や地域の図書館が充実していることを、私は切に望む。
 むしろ、学校の図書室や地域の図書館は、性を学ぶことができる格好のサロンという位置づけを持ってもらいたい。小さな仕切りの簡易壁を立て、少人数が座れるテーブルと椅子を用意し、その傍に性に関する本を集めたコーナーを設ければいい。保健室の先生と生徒らが本を読みながらオープンに性を語ることができれば、関心を持っていなかった生徒らも、徐々に性に関して興味を持ってもらえるかも知れない。

 そうして子どもらが、性の本を読んだり借りたり、お互いに語り合ったりすることをエロいとか恥ずかしいと思わなくなるような雰囲気づくりが大事だ。普段、友達同士でセックスについて話したりした内容が、偏見や誤解であったりすることに気づくかも知れない。これはとても大切なことである。
 性の本を読ませることは、“まだ大人になっていない”子どもらに、むやみにセックスの行為に目覚めさせ、それを助長せしめる悪いことなのだと信じ込んでいる大人たちが、いまだ確かに、あちこちに存在する。そうして図書室図書館における性の本の展覧を、恣意的にやめさせる、強制的に封じ込めてしまう愚かな大人たちを、徹底的に教育し直す必要があるのだけれど、ごく普通に気軽なかたちで子どもらが、性に関する本を手に取って読んでもらえる機会が増えたらいいな、ということを私は思うのである。

金八先生の「十五歳の母」のこと

 もう一つここで、個人的な雑感を付け加えて書いておきたい。
 昔、私が小学生だった頃の昭和50年代に、武田鉄矢主演・小山内美江子脚本のテレビドラマ『3年B組金八先生』を観て、子どもながらひどく考えさせられたことがある。

 ドラマ『3年B組金八先生』の第1シリーズは、中学生同士で性交渉をしてしまった生徒が妊娠していることが発覚し、家庭や学校、地域で大問題となる、というのが大筋のストーリーであった。
 本人たちは本当に愛し合っていたが、懐妊中、自ら子供を殺めようとした過ちに気づき、子を身ごもっていた女子生徒は、出産を切実に望むようになる。周囲の大人たちは大反対するのだが、既に人工妊娠中絶できる時期ではなく、結局、学校側と男子生徒の親は、二人が将来結婚を望んでいること、真剣に愛し合っていることなどを肯定し、また擁護し、二人の意思を尊重するようになる。
 そしてこうしたことは、どの中学生にも起こりうることなのだと気づいた教師らは、命とは何か、愛することとは何か、中学生がセックスすることは、どのように問題なのかということを授業=性教育の授業(ドラマでは“愛の授業”と称して)で生徒ら子どもたちに問いかけ、この経験によって教師ら大人たちも、その命の尊さや性について議論する大事さを学ぶ。これが当時たいへん話題を呼んだ「十五歳の母」の、衝撃的なドラマであった。
 性暴力ではなく、あくまで愛し合った二人の性交渉による結果の妊娠であろうとも、子供を育てる能力がまだ伴わない中学生のセックスが、いかにリスクとして大きいか。むろんそれ以前の軽はずみなセックスなど言語道断なのだが、避妊するという知識すらなかった当事者の罪悪感であったり、それを子どもらに教えてもいなかった教師の側、つまり、それを本来もっと早いうちに教えなければならない性教育の貧しさについて、といったこと…。そんなようなことを、私はこのドラマを小学生の時に観て、感じ、中学生というのは難しい年頃なのだなあということを漠然と思ったものである。
 『3年B組金八先生』の第1シリーズは現在、DVD-BOXで市販流通しており、少々価格が高いが、観ることは可能である。興味のある方はぜひシリーズを通して観ていただきたい。

遅すぎる性教育こそリスクが大きい

 まず大人たちが、議論すべきである。“早すぎる性教育”よりも、“遅すぎる性教育”の方が、遥かに子どもたちに深刻なダメージを与えていることを認識しなければならない。若者の性感染症の患者数が増え、一方では早すぎる性交渉による人工妊娠中絶の問題と性被害の問題がある。LGBTの人権とケアのことも学ぶ必要がある。
 何度も言うように、子どもたちには正しい性の知識が必要だ。大人が情報を遮断してどうなるものでもない。学校に限らず、地域でも活発な性教育を推進する活動をおこない、大人たちも一緒に性について考える。個人が、仲間同士が、あるいは家庭の中での親と子が、もっと気軽に性のことを語り合える心持ちと環境をととのえることが、社会への要請であり、急務なのだ。

〈了〉
朝日新聞朝刊2018年5月13日付

朝日新聞朝刊2018年5月13日付

「考え方に差 悩む先生」の見出し

「考え方に差 悩む先生」の見出し

朝日新聞朝刊2018年5月14日付

朝日新聞朝刊2018年5月14日付

「セックス(性交)」という言葉に関するアンケート結果

「セックス(性交)」という言葉に関するアンケート結果

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