男に異存はない。包茎の話。

愛はどこに?―アンアンのSEX特集

2018年10月2日

『an・an』の“SEX特集”を体感する

 シャワーを浴びて体を洗い、身も心もさっぱりとした後、蒸したバスルームからひとときの解放感を得るため、おもむろに窓を少し開けて外気を入れる。この瞬間がたまらなく気持ちいい。外の澄んだ冷気が首筋に当たってから、やがてひんやりとした風の振幅が小刻みに下腹部を震わせる。背中から尻の稜線を通り抜けて腿のあたりに流れ落ちる湯の水滴が、緩やかに、冷たくなって消えてゆく。バスタオルで裸を包み込み、湿った体が徐々に乾いた肌に変わりゆく頃、窓の外の遠く家々の明かりがぽつりぽつりと見え、この開け放たれた数秒間だけは、閉じた世界から窓越しの裸が見えてしまっているであろうことを想像した、少し大胆で破廉恥な気分に浸れる――。
 
 日常生活の中、心と体に《非日常》の潤いをもたらしてくれるセックスの楽しみ方。恋人と過ごすセックスの極意を、審美的感覚でおしゃれに知らしめてくれるのが、雑誌『an・an』(マガジンハウス)の夏恒例“SEX特集”である。「セックスで、きれいになる。」という標題でこの企画を着飾っていたのは、もうだいぶ昔の90年代のことで、今はそれが、「愛とSEX」となっている。
 
 この『an・an』“SEX特集”は、SEXの秘密を暴いたり覗き見するのが目的ではない。20代以上の女性をターゲットに、カジュアルな性生活における男女の心と体をケアすることを主眼とし、清潔に、審美的に、セックスのプチブル的悦楽を啓発するのが、建前としての目的なのだろう。条件はシンプル。大人であり、パートナーがいること。パートナーのいない女性には、理想的なセックスへの憧れを抱かせる内容にもなっている。常に女性の美意識が高いことを前提に、女性が男性に対して知識を啓発したり、男性への身体的なケアをしたりすることも、積極的に提案している。内容的には几帳面かつ優しく、そして示唆に富んでいる。ただし、この“SEX特集”の記事から、本当に《愛》が見えてくるかどうかは、読者の判断次第ということかも知れない。
 

さて、その中身は…

 『an・an』No.2114 2018.8.15-22合併号は、AAAの西島隆弘さんと女性モデルの裸の陰影がとても美しい、エロティックで感度の高いインパクトのある表紙であり、《寄り添い確かめあう、甘美な時間。》の下の赤い“an・an”のロゴが半分、頭部の裏に隠されていて少し淫らさを装う。そして《愛しい人と触れあう、優しい時――。》の下の《愛とSEX》の白い文字が、その意を含め、見る人に強烈な印象を与えている。実に秀逸な表紙である。
 西島さんを被写体としたトップページのフォト・ストーリー「溢れる愛、その先に。」は、若い男女の日常的かつ自然な雰囲気が演出されていて好感が持てる。ソファの上で愛する二人がくつろぎ、優しく触れ合い、そこに横たわって安らかに息をととのえている姿など、かけがえのない幸福な時間の大切さを思わせ、二人が衣服を脱ぎ合いながら徐々に親密で濃厚な吐息のベッドの、その興奮状態に豹変していく様子は、艶めかしく官能的だ。
 そうしてシャワーを浴び、すべてを終え、窓からの柔らかな光が差し込むその薄灰色に染まったベッドにて、ひとり物思いに耽る男の裸姿に、多くの女性読者が感応を覚えるだろう。溢れる愛とは、いかに美しく、清らかであるかと。そこに見えなくなった女性の影に、自分自身を投射させ空想に耽るのも自由である。
 
 こうしたフォトストーリーが毎回、“SEX特集”の大きなトピックとなっていて、次はどの有名人が裸になるのかといった話題でも、巷では期待され騒がれているのである。商業雑誌の宿命として、発行部数を増やすべく、できるだけ多くの人に好んで読んでもらえるような内容を載せる、という点で、玉石混淆の女性雑誌の読者獲得競争は凄まじいだろう。確かに『an・an』の雑誌は、書店で陳列される無数の雑誌の中でも特に見栄えが良く、目に付きやすく、心に響くものがある。おそらく苦心して作られているであろう美意識の高い装幀で女性の心を掴み、中身の記事でさらにセックスについて関心を持ってもらう。この点においてある意味、性教育的な役割を果たしているとも言え、セックスの正しい知識を身につける上で、この雑誌の社会的貢献度は高く評価されるべきである。
 

恒例、“SEX”アンケートと“SILK LABO”の撮り下ろしDVD

 「心とカラダ、両方満たされたい。Ananセックス白書2018」のページでは、セックス経験のある20歳から35歳の男女を対象にしたアンケート内容が記されている。詰問事項はほとんど端的で分かり易い。

《セックスは好きですか。 WOMEN YES 70% MEN YES 97%》
《パートナーがいる、いないにかかわらず、セックスをしたくなることはありますか。 WOMEN YES 67% MEN YES 92%》
《経験人数を教えてください。 WOMEN 1-5人 75%…》
《パートナーとのセックスに、満足していますか。 WOMEN まあまあ満足 58% MEN まあまあ満足 50%…》
《最近のセックス頻度を教えてください。 WOMEN 月に1~3回 33%…》

(『an・an』No.2114 2018.8.15-22合併号より引用)

 
 このアンケートの結果を見ると、対象となった年代のほとんどの男女が、セックスは好きであり、パートナーの有無に関係なくセックスをしたくなり、パートナーとのセックスに半数以上の男女が満足している、ことになる。また、その経験人数も頻度も、比較的寡少の傾向は見受けられる。
 アンケート結果を掲載したページの他、「愛とSEX」の特集では、読者によるセックスの体験話であるとか、自分もパートナーもお互いにセックス・メンタリズムを高めようだとか、「大人女子のための保健体育」といった記事がいろいろ提示されて、まさにどこを見ても読んでも“SEX特集”なのである。
 また、特別付録として、女性向けアダルトDVDレーベル“SILK LABO”の撮り下ろしDVD「優しさに包まれて」が封入されており、この撮り下ろしDVDでは、3人の男優(東惣介北野翔太有馬芳彦)による“癒し”のエピソードが、ソフトなセックス・シーンをまじえた演出で愉しむことができる。
 

カジュアルな“SEX”悦楽論

 時代の変容にともない、こうした雑誌の存在感は、より知覚的に女性の好奇心に沿う形で増してきている。たとえば以前では憚れる内容であった、“女性のひとりH”といったトピックも紙面に多く含まれており、そうしたグッズであるとかデリケート・ゾーンをケアする洗浄剤や保湿剤といった具体的な紹介にまで及んでいる。
 置いてきぼりになるのは、こうした性の知識に疎い男性であり、10代の若者である。高めなければならないのは、雑誌の発行部数競争ではなく、できうるなら、性の知識である。雑誌編集部の取り組みとしては、ターゲット層に向けてこうした企画が挙げられやすく、ビジュアルの話題性もあって好奇心旺盛な女性が飛びつくのだろうが、性の知識という観点で考えると、男性も女性も、それもできれば10代の若者に向けた性教育が、こうした商業雑誌でできないものかと、新たな企画に期待する面がある。
 また、“SILK LABO”の女性向けのソフトなアダルトDVDが、若い男性にも受け入れられる可能性がある。性の知識云々とは別に、若者の性に対する価値観や感覚が以前とはだいぶ変わってきているのだ。
 
 これらをまっとうに受け止め、啓発のための新たな企画に乗り出してくれるメディアが、増えてくれることを望む。しかし、いつの時代であっても、本質的な《愛》《SEX》の関係の根幹部分が、メディアの勝手な都合で置き去りになってはならない。セフレの立場の「親切で優しい愛」などではなく、心から寄り添える、信頼できるパートナーのための、手引きとなるような《SEX》の教本なるもの。私は、『an・an』のこの手の特集を肯定し、高く評価する一方で、《愛》についての履き違いがところどころ生じていないかどうか、いくぶん不安に思うところがある。親密なパートナーとは、必ずしも信頼できるパートナーと同義でないことは、頭に入れておかなければならないだろう。

〈了〉

『an・an』2018.8.15-22 No.2114

雰囲気はとてもエロティック

今号の被写体は西島隆弘さん

“SEX特集”の恒例アンケート調査のページ

こっそり夢見る、幸せセックス?

これはとても親切「大人女子のための保健体育」

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