男に異存はない。包茎の話。

性教育授業セットを使った北沢杏子さんの授業

2019年11月12日

 実はごく最近ながら、「小学生版 性教育授業セット 女子の成長」というアーニ出版が製作した、学校用の教材セットを入手することができた。かなり古いもので、80年代頃の教材セットなのだが、小学校における性教育の授業では、とても有用な教材であると思われ、その中身を理解する上でも、この機会に敢えて取り上げてみたいと思った。
 

アーニ出版と北沢杏子さん

 ところで、これを製作したアーニ出版とその代表者・北沢杏子(性教育実践者)さんについて、簡単に解説しておくことにする。
 アーニ出版http://www.ahni.co.jp/index.html)は、1969年に創立。性教育やエイズ教育、薬物乱用防止教育といった学校用の教材や書籍を製作している会社である。一般でも性教育関連の本を検索してみると、その何割かはアーニ出版だったりするくらい、過去において出版物は著しく多い。代表者の北沢杏子さんのほかは、美術担当の長谷川瑞吉(みずよし)氏の氏名が、公式ホームページでは明記されている。福島県出身で画家である長谷川氏のアトリエの風景なども、ホームページ内をたどると見ることができる。ちなみに入手した教材セット「小学生版 性教育授業セット 女子の成長」も、長谷川さんが製作担当となっており、北沢杏子監修のもと、二人の著作品ということになっている。
 
 北沢杏子さんについては、当サイトで昨年、スウェーデンの本『ムンメル―なぜ子どもを生むのか』アーニ出版)の解説の際に、訳者として少し触れた(「ムンメルと愛の物語」参照)。尤も、国内の性教育関連本の出版物でよく目にする著者が北沢さんであり、戦後の長きにわたる性教育の分野での牽引者の一人であることは間違いないし、その功績はとても大きい。北沢さんのプロフィールを、「性を語る会」のホームページ(http://www.ahni.co.jp/kitazawa/)から引用しておく。
《1965年から性教育を中心とする研究、著述、海外取材、講演、評論活動を展開。全国の小、中、高校、大学の要請による公開授業やゼミを行なうと共に、200余点の性教育・エイズ教育・乱用薬物防止・性暴力被害防止・環境教育などの教育教材を制作。文部大臣賞、教育映画祭最優秀賞・人権賞などを受賞している。アーニ出版の全作品の脚本・演出・監修。著・訳書は70冊を越えた。アーニ出版共同代表、「性を語る会」代表、国連人口基金および国際協力事業団のリプロダクティブヘルス/ライツIEC(インフォーメーション・エデュケーション・コミュニケーション)事業専門家派遣員他》

(ウェブサイト「北沢杏子と『性を語る会』のHOME PAGE」より引用)

 

性教育授業セットの中身

 実は最近、北沢さんの性教育に対する信念や考え方を理解すべく、著書の『実践レポート ひらかれた性教育』(1~5、アーニ出版)をすべて揃えてみようと試みたのだった。そのうちの2の「9歳から12歳まで」(1983年初版)を私は最初に入手した。
 これを読むと、今日では国際的なスタンダードとなっている「包括的なセクシュアリティ教育」の具体的な指標が、北沢さんの感覚を通して、よく理解できる。ページをめくっているうちに、“昭和の80年代”にこんな素晴らしい本があったのかと驚いてしまうほど、『実践レポート ひらかれた性教育』は進歩的かつ名著であって、現代の感覚にほとんどマッチしていると思われる。翻すと、今日の日本の公教育における性教育が、依然としてこの本の内容に「追いついていない」ことの驚きの方が遥かに大きく、不自然かつ不健全であることに気づかされる。
 
 「小学生版 性教育授業セット 女子の成長」は、文字通り、女子の成長期における体の変化を教えるのが主目的である。セットの中身は、体の図版や子宮などが描かれたマグネット付パーツ、「女性ホルモン」や「卵巣」といった言葉が描かれたマグネット付文字プレートとなっているが、各パーツや文字プレートはあらかじめ切り取ってから使うことになる。それぞれの部品の裏側にはマグネットが付いているので、黒板やホワイトボードに部品を貼り付けながら、視覚に富んだ実践的な授業をおこなうことができる。
 さらにこのセットには、1巻のビデオテープが封入されていた。今となっては貴重な、VHS方式の磁気テープである。これを再生するためには、もはやアンティークと称していい古いビデオデッキが必要となり、徐々に困難になりつつあるのだけれど、幸いなことに私は、実際にこれを再生して観ることができた。
 

ビデオテープの内容“女子の成長”

 再生したビデオテープの内容は、北沢杏子さん自らが指導をおこなった、ある小学校での性教育の授業(「面白いな! 性教育シリーズ “女子の成長”」全編12分)のカラーでの記録映像であった。同じ80年代を小学校で過ごした思い出のある私にとっては、この映像を観ると、学校(教室)の雰囲気がえらく懐かしい。時代を感じさせる子どもたちの姿(小学4年生くらい?)は、隔世の感極まれりなのだが、性に対する興味や反応は、今とさほど変わらないのではないだろうか。
 
 映像では、北沢さんが児童との楽しいやりとりの中で、時折マグネット付きパーツマグネット付き文字プレートを扱い、体の変化にまつわる知識を、視覚的な効果と併せて子どもたちにプッシュしていく様子がよく分かる。北沢さんは慣れたもので、教材の扱い方の手際の良さが目立つ。 
 一方の児童の方も真剣に話を聴き、例えば実際にボードに貼られた男子と女子の体の絵に、その上から各パーツを貼り付けていく作業というのは、この時期の子どもたちにとって、思考と体感を駆使した学習法としてそれなりに効果があることが頷ける。ここで大事なのは、五感をフル回転させた体験であり、体感なのだろう。
 残念ながら著作権上、このビデオを動画サイトなどで公開するわけにはいかないので、映像をお見せすることはできない。が、北沢さんの授業がどんな感じなのかについては、先述した『実践レポート ひらかれた性教育』を読むと、大いに参考になるだろう。紙面ではぽつぽつ、教室内での児童との会話のやりとりが再現されていたりするので、指導法としても充分参考になるテクストである。
 
 このたいへん勉強になる名著『実践レポート ひらかれた性教育』のシリーズについては、あらためて別稿で触れることにしたい。北沢さんの実践してきた「包括的なセクシュアリティ教育」が、今日の日本の後進的・後退的な状況を救い出せるかも知れないのだ。
 

〈了〉

性教育授業セット 女子の成長

マグネットの付いた文字プレートや体のパーツ

北沢杏子さんの「女子の成長」授業のビデオテープ

80年代頃のビデオ映像の北沢杏子さん

右と左の人はどちらが女子か?

80年代のすくすくとした子どもたち

マグネット付きパーツを貼り付けて授業を進める北沢さん

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