「月経周期」というリテラシー

2020年1月30日

 

32万人の「月経」調査!?

 2020年1月25日付朝日新聞夕刊に、こんな見出しの小さな記事が掲載された。「月経周期 20代後半→40代前半『3日短く』」――。
 コンテンツ配信事業の株式会社エムティーアイが、女性の健康情報サービス「ルナルナ」の既存のビッグデータ(アプリ登録者32万人分)をもとに、国立成育医療研究センターと共同研究して解析をおこなった「日本人女性の月経周期」において、20代後半から40代前半にかけては、「月経周期」が約3日短くなるのだとい解析結果を23日、同社が発表した。
 
 まず、「月経」とは何かについて、踏まえておくことにする。
 新聞記事でも触れられているように、公益社団法人・日本産科婦人科学会http://www.jsog.or.jp/)が定義している「正常月経周期」は、「25~38日」である。私が確認したところ、学会の『日産婦誌67巻3号』に「4.内分泌疾患各論」という章があって、その中でまず、《月経とは「通常、約1か月の間隔で起こり、限られた日数で自然に止まる子宮内膜からの周期的出血」のことをいう》と示されていた。
 
 ちなみに、小学3・4年向けの保健教科書『新版 たのしいほけん』(大日本図書、平成27年初版)の「2.育ちゆく体とわたし」には、「おとなの体になるじゅんび(2)」という節があり、「月経」についてはこう記されている。
《女子では、思春期になると、月に1回ほど卵子(命のもと)が卵巣から出されて子宮へ運ばれます。そのとき、子宮では内がわのまくが栄養をふくんだ血液であつくなります。そのまくは、しばらくするとはがれて体の外に出されます。このようなしくみを月経といい、はじめての月経を初経といいます》

(大日本図書『新版 たのしいほけん 3・4年』より引用)

 
 さらに、「月経のしくみ」という図が記されているので参考としよう。
《①卵子が発育する。②子宮の内がわのまくがあつくなる。③子宮の内がわのまくがさらにあつくなる。④子宮の内がわのまくがくずれ、月経が起こる》

(大日本図書『新版 たのしいほけん 3・4年』より引用)

 
 思春期になると、男子も女子も、脳の下垂体から性腺刺激ホルモンが分泌され、性ホルモンの分泌が活発となる。女子は卵巣が発達し、排卵(と「月経」による生理現象)が起こる。男子は精巣が発達して精子がつくられるようになる。男子の生理現象については、ここでは述べない。
 「月経」は、ある日数の間隔で繰り返し起こる。それが「月経周期」である。先述した『日産婦誌67巻3号』の第4章にある「月経と月経の異常に関する定義」を見ると、正常の場合、「月経」の開始年齢は「12歳」、閉止年齢は「50歳」とある。また、早発月経の年齢を10歳未満とし、遅発月経の年齢を15歳以降と定義している。「月経周期」については「25~38日」。経血の持続日数は「3~7日」。経血量は「20~150g」。これらの定義は、日本産科婦人科学会が出版している『産科婦人科用語集・用語解説集』(杏林舎)から拠ったものと思われる。この「月経周期」と毎朝の基礎体温を記録することによって、排卵日(排卵期)を予想することができる。
 
 エムティーアイサイトにあるテクストによると、用いられた既存データは、2016年から2017年に「ルナルナ」に登録した女性約30万人分「月経周期」(約6百万周期)であり、新聞記事に記されている“32万人分”とは少し数字に開きがあることは留意しておく。いずれにせよ、30万人以上の女性が「ルナルナ」のアプリを用いてデータを入力し、その集められたビッグデータの解析をおこなった結果、これまでほとんど知られていない「月経周期」に関する事実が明らかになったわけだ。ただしこれは、“第一弾”ということになっているから、継続して今後、エムティーアイから何らかの発表があるかも知れないが、今回の発表では、大きく分けて3つの結果にまとめることができる。
 

ビッグデータから分かった「月経周期」の新事実

▼「月経周期」と季節の関係はあるのか?
 結論を先に述べれば、日本人女性の「月経周期」と季節との関係は、ほとんど影響しない(影響していない)ようだ。エムティーアイサイトでは、季節ごとの「月経周期」を表したグラフを参照することができるが、これを見ると、春夏秋冬別の「月経周期」の頻度分布において、季節ごとの差はなく、概ね、21日から42日にかけて分布し、どの季節においても「28日」が頻度として最も多い周期となっている。動物にはある「繁殖期」(breeding season)が人間にはない――ことの本証と言っていいのではないだろうか。
 
▼「月経周期」と居住地の関係はあるのか?
 南北に長い日本の国土において、北は北海道、南は沖縄と、気温や日照時間は異なる。が、統計的にはどの地域においても「月経周期」に違いはないようだ。むろん、もっと広い地域や国によって差があるのかどうかについては、この結果から読み解くことは不可能である。
 
▼「月経周期」と年齢の関係はあるのか?
 エムティーアイサイトによると、これまで世界で使用されてきた「月経」に関する基礎情報は、1950年代のアメリカでのデータがおおもとであり、それを参考にしてきたのだという(新聞記事では《元になったのは1960年代のデータ》と記されている)。驚くべきことに、当時のアメリカの調査は、その対象者数がたったの650人(3万月経周期)と少ない。こうした調査というのは、定期的におこなって更新するべきものではないのか。
 ともかく、今の日本人女性の「月経」の実態と、果たして見合うのかどうか、そもそもそのアメリカの50年代のデータは正確なものなのかどうか疑問視されていた。今回のビッグデータの解析によって、かなり正確性の高い結果が得られたようである。
 
 さて、「月経周期」と年齢との関係についての結論。これについても、エムティーアイサイトにあるグラフを参照していただきたい。
 ここでは簡単に述べると、まず「15~19歳」では、「月経周期」のばらつきが大きく、およそ「14日」から「49日」という範囲でかなり個人差があることが分かる。この傾向は「20~24歳」でもほぼ同様である。が、若干周期の短い人が減る傾向にある。「25~29歳」になると、周期のばらつきが小ぶりとなり、86%の人が「正常月経周期」範囲内となって、「28日」が最も多い頻度ということになっている。
 
 周期そのものが比較的短くなるのが「40~44歳」で、「正常月経周期」を下回る人が15%近くいて、それを上回る人が極端に少なくなる。「45~49歳」では、「正常月経周期」を下回る人が20%もいて、「26日」から「27日」あたりの頻度が最も多くなるようだ。この傾向は「50~54歳」にも当てはまるが、「月経周期」が「35日」を超える人がいっぽうで増えている。
 全体として見てみると、「月経周期」は年齢とともに短くなる傾向は見受けられるが、「正常月経周期」の範囲外の人も少なくなく、現行の「正常月経周期」の定義というのは、実際のところ、“正常”云々にあまり意味などなく、単なる「月経周期」の日数を指し示しているくらいの目安にしかならないことがよく分かった。つまり、「月経周期」が年齢とともに短くなる人が増えるのと、周期が短くなったり長くなったりする人も増える傾向にあるので、「月経周期」は個人差のみならず、加齢にも影響されると考えればいいわけである。
 

〈了〉

2020年1月25日付朝日新聞夕刊より

大日本図書『たのしいほけん 3・4年』の「おとなの体になるじゅんび(2)」

同教科書における「月経のしくみ」

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