の話。
寝た子を起こせ。これは一生に関わる大事なことなんだから。

【コロナ情報】ソーシャル・ディスタンシングの話

2020年5月9日

 
 これを書いている現在、私の手元にある資料では、新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックによる世界の感染者数はおよそ375万人を超え、死亡者数は26万人を超えている(5月5日の時点での統計)。そのうち、アメリカの感染者数は126万人、死亡者数は7万4千人を超え、日本の感染者数は約1万5千人、死亡者数は570人を超えている。

「ソーシャル・ディスタンシング」というワード

 ところで私の住む首都圏では、非常事態宣言が続く中、既にスーパーやコンビニなどでの買い物の際、レジの前で間隔をあけて並ぶ光景が当たり前となっている。多くの人がこの光景を見、また実践していることだろう。 
 この間隔をあけて並ぶ、すなわち“他者との距離を保つ”感染症対策を「ソーシャル・ディスタンシング」(Social Distancing、社会的距離戦略)と言い、世界各国の政府当局や専門家がこれを推奨し、実践を促している。
 
 2020年5月4日付朝日新聞朝刊に、実にわかりやすい記事(「『ソーシャルディスタンシング』。心のつながりは保とう」)が掲載され、これを読むとたいへん参考になった。そこには「ソーシャル・ディスタンシング」は「社会的距離の確保」とあり、これを「フィジカル・ディスタンシング」(物理的/身体的距離の確保)とWHO(世界保健機関)が言い換えていることにも触れられている。いずれにせよ、「密閉、密集、密接」3つの密を避ける感染症対策のポイントと併せて、「ソーシャル・ディスタンシング」というこれまであまり聞かれなかったワードが、今や全世界で最も周知され、日常生活におけるマストとなったのである。
 
 「ソーシャル・ディスタンシング」は、パンデミックにおける感染症対処策としての、緊急かつ継続的(断続的)生活様式そのものを指す。したがって、先の新聞記事で詳しく分かりやすく記されているように、外出をしないといけない時は、近くの人から常に2メートルほど離れよう、ということである。握手やハグはだめ。東京都や北海道では、ロゴマークを作って「ソーシャル・ディスタンシング」の実践を呼びかけている――。
 
 実際に北海道のホームページで見てみると、こんなことが記されていた。
《北海道ソーシャルディスタンシング ~今は、きょりをとって~
 新型コロナウイルスの感染を防ぎ、大切な人の命を守るために、お互いに手を伸ばしても届かない距離を保つ、北海道ソーシャルディスタンシングを道民運動として展開します。
 あなたの大切な人の命を守るために、日々の行動で、いつもより少し距離を保つことに、ご協力をお願いします。
 市町村や企業、団体の皆様には、店舗や施設、職場内における取組に、ご理解とご協力をお願いします。
令和2年4月 北海道知事 鈴木直道》

(北海道のホームページより引用)

「ソーシャル・ディスタンシング」の具体的な提言

 アメリカ疾病予防管理センター(CDC:Centers for Disease Control and Prevention)はジョージア州アトランタにある感染症対策の総合研究所で、その分野の権威である。そこではこの「ソーシャル・ディスタンシング」についての定義付けをおこなっている。
 簡単に中身を要約して書き出すと、①屋外において、他人との距離を約6フィートもしくは2メートルとること。②集団的な場から離れ、大人数の集会を避けること、ということになる。
 
 これは、通常の人的社会生活において、咳やくしゃみなどの飛沫感染を抑制する、最も効果的な手段であることが述べられているわけである。すなわち、新型コロナウイルスの感染を拡大させないことに、とても有効な手段であるというのだ。「ソーシャル・ディスタンシング」の実践においては、マスクの着用や咳をしない(咳をする時は手で押さえるなど)ことや、手洗いアルコール消毒などの衛生上の対策をあらかじめ併せ持つことが重要であり、結果的にこの手段が、感染者増加を抑制し、なおかつ各地域の医療サービスの負担を軽減させることにもつながる。だからこれが、継続的(断続的)な生活様式となるのだ。 

「ソーシャル・ディスタンシング」の啓発広告をつくってみて再現

2020年5月4日付朝日新聞朝刊より

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  Wikipediaの「ソーシャル・ディスタンシング」では、2020年3月17日付『Forbes Japan』の記事、ジョンズ・ホプキンズ大学ブルームバーグ公衆衛生学部Bruce Y. Lee氏「ウイルス感染の拡大抑制に役立つ『社会的距離』戦略とは何か?」の内容を部分的に引用している(https://forbesjapan.com/articles/detail/34294?n=1&e=33080)。Lee氏は、パンデミックにおける社会的距離戦略について、以下の10項目の提言をしている。
《①できるだけ家から出ない ②2メートル以内に近づかない ③体を密着させない ④部屋、エレベーターのなかでも距離を置く ⑤握手、ハグ、キスをしない(日本人のようなお辞儀など代わりになる方法を探す) ⑥職場、学校、映画館、スポーツイベントを避ける(在宅勤務、遠隔授業、インターネット視聴などに切り替える) ⑦食料品店やコインランドリーは空いている時間に行く ⑧ラッシュアワーを避ける(満員電車を避ける) ⑨ペン、押しボタン、ドアノブなど、多くの人が触れた可能性のあるものには触らない。触った場合には、すぐによく手を洗う。ペンは携帯する。ドアノブに触るときは、清潔なペーパータオルなどを使う。 ⑩会議、集会、ハッピーアワーのバーを避ける。感染していないという確証が得られる人とだけ、少人数で集まる》

(Wikipedia「ソーシャル・ディスタンシング」より引用)

 
 新型コロナウイルスの蔓延に限らず、今後、未知のウイルスによるパンデミックの危険性が概知された時、真っ先に人々がこれらの「ソーシャル・ディスタンシング」の対処策をとりうるならば、そのパンデミックの傾向の度合いは、それを即座に実践しなかった場合と比べ、軽少に抑えられるのではないか、ということが予想される(そのウイルスの特性にもよるが)。少なくとも私たちは、今般の新型コロナウイルスのパンデミックの経験によって、いかにこの「ソーシャル・ディスタンシング」が大事であるかを学んだ。
 むろん、人々がこの社会的距離戦略をとる必然、言わば蔓延の“時間伸ばし”の間に、確たる治療薬ワクチンが用意され、それが広く全体の医療現場に流布されるまでの制約(民主主義における個人の自由という自己決定権を恐ろしく脅かすが、已むを得ない事情においての絆創膏的規律)という意味での効果であることは言うまでもなく、決して基本的人権が著しく疎外もしくは踏み躙られるような恒久的な制約(=圧政による強制力でゆがんでしまった社会的規範)であってはならないのだ。このことは充分に踏まえておく必要がある。

〈了〉