の話。
寝た子を起こせ。これは一生に関わる大事なことなんだから。

性器に悩むオトコたち

2021年10月18日

 
 最近、とある男子大学生に訊ねたら、ペニスの包皮が剥けるのを知ったのは、小学校低学年の頃だという。ただ、思春期になってきちんとした知識があったかどうか、ある程度無理矢理剥いてしまったために痛かったそうだ。「包茎は恥」という昔の感覚はだいぶ薄れてきているようだが、いかんせん、包皮を剥くことの理由だとか、正しい包皮の剥き方について詳しく知る機会は、今の時代においてもなかなか無いようである。それに加えて、性器の誤解や偏見を解くセクシュアリティ教育の授業というものを、公教育の現場に期待するのは、やはり無理なことなのだろうか。
 今年の6月、当サイトの「気になる性器」の稿で、性器の形や大きさの不安を煽るネット情報や雑誌広告のビジネス戦略について触れ、性器の偏見や都市伝説に惑わないで――という内容を記した。こうした不安を煽るメディア広告の影響によって、医学的には全く根拠のない美容整形治療をしてしまったり、ほとんど無駄な美容系アイテムを買ってしまったことのある人は、意外に少なくないのではないか。
 2021年10月6日付朝日新聞夕刊の連載「オトナの保健室」では、「悩む男性 もっと話して」と題し、さらに男性の性器に関する悩みについて、一般的に最も多数を占めるであろう、よく似た経験の事例が取り上げられていた。男性の性器の悩みの本質は、その“悩む”こと自体にあるのではなく、むしろその対処法を積極的に取らなかったことにあるようで、性器に関する情報のある種の誤解を解くことなく、パートナーに辛い思いをさせてしまった――というような例である。
 ここでは、新聞記事にあった悩みの事例を取り上げつつ、根底にある共通した問題点を探ってみたい。

真性包茎でも治療を拒んだ夫

 一つめの事例は、包茎で苦しんだ夫について語った、60代の女性の告白。夫の性器のコンプレックスが原因で、結婚当初からセックスで満足したことがなかったという。
 夫とのセックスは、楽しむ時間がいつも短くなってしまう…。その理由は、夫がペニスの先端の痛みを感じて、すぐに終わらせてしまうからだ。セックスをした後は、その痛みのせいで、しばらくセックスができない日が続くのだという。
 まだ若い頃、嫌がる夫を説得して、なんとかその傷を直接見せてもらったところ、どうもひび割れのような傷が無数にあって、血がにじんでいたという。しかし夫は、病院に行くことをどういうわけか拒絶する。仕方なく、近所の病院に相談したところ、やはりご本人が来られないと――と言われてしまったそうだ。
 子どもに恵まれ、周囲からは幸せな家族と見られていたと思うけれど、妻である私の心は、決して満たされていなかったという。夫はセックスについてほとんど話をしたがらず、友人とも話題にすらできなかった。ずいぶん後になって、親しい友人に話をしたところ、やっぱりその時、ご主人が病院に行くべきだったわね――と言われ、あの頃の自分がいじらしく思う。
 夫のペニスは、包茎(真性包茎)で包皮口が狭くなっていたのだ。無理をしてセックスをし、皮膚が裂けていたようだ。厳格な家庭で育った夫はプライドが高く、自分の性器のコンプレックスを直視できなかったのではないか。夫はセックスの時に痛みを伴ったが、私自身も心が傷ついていた。あの時、あの頃、堂々と対処して欲しかった――。
 
 記事にあったのは60代の女性の方ということで、遡って考えてみると、その方が新婚だった時代は、おそらくまだ平成になっていない頃ではないかと思われる。
 それはちょうど、私が小学校高学年の頃、もしくは中学生になったばかりの頃と時代が重なるのだ。あの当時の巷の性情報は、「包茎は手術して治すべき」論がおおむね主流であり、男にとって「包茎は恥」という既成概念が根強かった。その頃の小中学校では、保健体育の授業で、思春期のからだの変化月経射精といった基本的な性教育はなされたものの、具体的に男性の生理(射精をともなう自慰)や包茎などに関して指導することはなく、むしろタブーであった。したがって、学生に限らず大人であればあるほど、包茎の悩みを軽く語れる空気はどこにもなかったのだ。語れば、自分の恥が発覚するからである。
 
 医学的に治療が必要なのは、自分で剥こうとしても包皮口が狭くて剥けない「真性包茎」の場合のみで、仮性包茎は治療の対象ではない(そもそも仮性包茎というのは“仮性”の包茎であって、異常でもなんでもない。ふだんから亀頭部に包皮が覆われているというだけのこと)。
 にもかかわらず、雑誌などのクリニックの広告では、仮性であっても包茎は女性に嫌われるといった切り口で、包皮切除の手術が必要といった不安を煽るビジネス戦略(単なる美容目的の切除手術を、治療目的の手術にすり替えて論じる似非科学)がまかり通っていた時代である。「包茎は恥」だと思われていた風潮が、戦前からあったようだが、今もってそれが完全に払拭されているとは、言い切れない。

わかっていても不安で悩む男の心理

 別の54歳の男性の事例は、自分の性器の大きさに悩んだ――という告白。
 高校生の頃から、自分のペニスのサイズが気になり始め、雑誌などのペニス増大の手術やサプリの広告を見たり、アダルトビデオに登場する男性の性器が巨大に見えて、自分のと比べてしまって悩んだという。銭湯に行けば、小さい人はタオルで前を隠す=「小さいのは恥ずかしい」という思いがあるからではないのか。ペニスの形や大きさ、包茎は重要ではないと、知識として自分では理解していても、やはり気になるものだった――。
 ただ、20代から何人かの女性と交際するうちに、そういう悩みは消えていったという。あるパートナーから、男の人は気にしすぎ、といったようなことを言われたり。やはり一人では悩まずに、パートナーに考えを直接聞いてみるのもいいのではないか――。
 
 一般的に男性の場合、若いとか年齢には関係なく、心理的にどうしても、自分のペニスが小さいのか大きいのか、多かれ少なかれ気になってしまうことは、誰しもあることだと思う。とどのつまり、自分のは小さくて、セックスの時にパートナーをじゅうぶん楽しませることができないのではないか――という不安と、そのうちパートナーから「あなたのは小さいわね」と言われてしまうのではないかという恐怖心や強迫観念である。こうした心理的ストレスが強まれば、次第にインポテンツ(勃起不全や性交不能)に陥る可能性もあるのではないか。
 ペニスが小さいから性交がうまくいかないのではないか――といったことは、すべて誤解である。女性の腟というのは、ペニスが大きいとか小さいとかを感じるだけの繊細なセンサーが具わっていない。あくまで女性側の勝手な主観であり、つい大きいとか小さいとか口にしてしまうだけのことで、腟がそれを感じ取っているわけではないのだ。
 
 むしろ、女性はそんなことにこだわる人はほとんどいない。パートナーが本当に優しくて健気だったり、あるいは自分にとって理想的な相手だったりした時に、感動し、心理的かつ肉体的な興奮が生まれる。決してペニスが大きいから興奮するわけではなく、キスやペッティングの仕方次第で、セックスは熱くもなれば、冷めたりもする。したがって、もし自分達がセックスで十分な快楽を得られていないと思うなら、それはペニスの大きさのことではなく、別の理由が考えられる。何度も言うが、男性はペニスの形や大きさにこだわる必要は全くない

2021年10月6日付朝日新聞夕刊より「悩む男性 もっと話して」

奈良林祥著『20歳前後の本』よりペニスに関する話を再構成

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  ペニスに限らず、セックスに関してこまかいことにこだわればこだわるほど、卑屈になり、パートナーの印象は悪くなる。そんなことよりも、相手を心の底から愛しているかどうかだ。強く抱きしめるかどうかだ。形ではない。愛情の表し方の問題である。男性が自分のペニスのサイズにこだわって、くよくよ悩んでいたりすると、セックスに対する興奮は冷め、全く楽しめない…という結果になる。相手はそうしたことを察知して、それを不満に思うのだ。セックスの不和が起こるというのは、お互いの愛情の直接的な表現から遠ざかった時に起こり、一緒になって楽しもうという気持ちが離れてしまった時だ。いわゆる象徴的な、筋骨隆々的に鍛え上げられたペニス神話は幻想であり、女性にとってもたいへん迷惑な情報なのである。

性器はもともとアンバランスなもの?

 奈良林祥『20歳前後の本 これだけは知っておこう!』(昭和43年初版/KKベストセラーズ)より、ペニスに関する「20歳のSEXテスト」を一部紹介しておこう(※掲載した画像参照のこと)。ということで以下、その解答を記しておく。
 
 問1の答えは、(ニ)。ここで奈良林氏は名解説をしているから、要約しておこう。実際に、勃起してもペニスが5センチにも足りないという男性は、セックス・チェックの対象にもなりかねないようなもの。ペニスの大小など、問題にならない。ペニスがいささか小ぶりであるということと、男の道具として役に立つ立たない、ということとは医学的に無関係。
 問2の答えは、(ロ)。ペニスの大小セックスの強弱とは、全く関係がない。ペニスに手を加えて、大きくしなければ気が済まない、という人はいるだろうけれども、それも含めて、セックスの強弱にはなんの関係もないということである。ペニスを増大増長したからといって、性的能力が強くなるわけではない。なんでも大きなものを欲しがる、幼児の心理と同じだ。
 
 ペニスの誤解や偏見に関連して、奈良林氏の『20歳前後の本 これだけは知っておこう!』では、こんなことも書いてあったので記しておく。
 そもそもわれわれ人間は、ふつうは正常人間なのであって、「標準人間」というものはない。顔の形や身体の部分的に左右不揃いであること、左右が不均衡であっても、何ら不思議ではない。
 男性の睾丸も同じで、性的に興奮すると、睾丸は腹の方につり上がるのだけれど、その際、睾丸は左右同時につり上がるのではない。この時、ペニスと睾丸の形状は全く左右不均衡に映るけれど、だからといって、あなたのペニスが異常であるとは、もはや誰も思わないのと同じ理屈で、ペニスが少々、左に傾いていようがいまいが、もともと性器には標準というものはないのだから、正常に機能していれば何の問題もない
 何度も言うが、性器の大小や形の出来不出来は、見た人の(あるいは自身のからだを鏡に映してみた自分の)単なる主観的観察結果なのであって、セックスには何の影響も関係もない。そうしたことを心理的に揺さぶってくる、不安を煽る過大広告に欺されるな――ということである。そしてあなたのパートナーが、あなた自身に求めているのは、そんな性器の見栄えのこと――なのではないことを、よく知っておいて欲しい。

〈了〉