の話。
寝た子を起こせ。これは一生に関わる大事なことなんだから。

経口中絶薬の承認

2023年2月9日

 
 妊娠初期における人工妊娠中絶の選択肢として、日本でも経口中絶薬の使用が認められそうである。2023年1月28日付朝日新聞朝刊「中絶方法 世界に30年遅れ」の見出しは衝撃的だ。厚生労働省が先月27日、経口中絶薬「メフィーゴパック」の薬事承認を了承したという内容の記事である。

妊娠初期の中絶方法

 記事の内容を要約していこう。WHO(世界保健機関)では、妊娠初期の中絶方法として、「経口中絶薬」と「吸引法による手術」を推奨している(2012年改訂『安全な中絶:医療保健システムのための技術及び政策の手引き 第2版』)。手術においては、世界的に、かつて主流だった「掻爬(そうは)法」から「吸引法」に1990年頃から切り替わっていた。「掻爬法」「吸引法」に比べ、母胎に及ぼすリスクが高い。日本では2015年に「吸引法」による手術が認められたという。日本は世界から30年近く遅れていて、北里大の斎藤有紀子准教授(生命倫理学)は、国内のこうした人工妊娠中絶の課題に関して、女性の健康や人権を置き去りにしてきたと指摘している。
 経口中絶薬が承認されたものの、その使用面で課題もあるという。
 現行の母体保護法では、中絶について、医師が本人と配偶者の同意を得なければならないという規定がある。配偶者でなくても、同意の署名を求める医療機関もあって、薬を使える期間が過ぎてしまう恐れがある。また、中絶費用の負担の問題や、薬の服用から中絶にいたる経過において入院が求められるのではないかという指摘も。結果的に、薬が使われにくい環境にならないか、経口中絶薬の承認を求めてきた「#もっと安全な中絶をアクション」梶谷風音さんは、懸念を訴える。
 
 記事では、経口中絶薬の使い方イメージをわかりやすく示していた。
 対象は「妊娠9週0日まで」とされ、まず、妊娠のホルモンを抑えるための「ミフェプリストン」1錠飲み、36時間から48時間後に、子宮を収縮させる「ミソプロストール」4錠を、左右の頬の内側に2錠ずつ含み、30分かけて溶かし、粘膜から吸収させる。
 中絶の効果としては、治験の結果、8時間後までに90%、24時間後までに93.3%もの高い割合で胎児を包む胎嚢(たいのう)が体外に出る。主な副作用は、下腹部痛が30.0%、嘔吐が20.8%などとある。

経口中絶薬の課題点

 さらに記事では、薬(「ミフェプリストン」と「ミソプロストール」)の使用について、課題点を挙げている。
 一つめの「ミフェプリストン」を飲んだ36時間から48時間後に二つめの「ミソプロストール」を飲み、8時間以内に9割が中絶にいたるのだが、残り1割が中絶にいたらないで、手術が余儀なくされる。中絶初期の手術をするクリニックでは、入院設備がないところがある。
 平日の朝に二つめの薬を飲むようなスケジュールを組めば、夕方までに中絶が完了し、入院設備のないクリニックでも診療時間内に対応できる。しかし、薬を飲んで帰宅した場合に、夕方までに中絶が終わらないで夜間に多量の出血や腹痛等が起きた時の、夜間におけるクリニックの対応ができにくい。こうした場合の夜間診療をどうするか。
 
 初期中絶の手術の費用はだいたい10万円だが、中絶薬も夜間のスタッフにかかる費用を含めると、手術の費用より大きく下がらないという。北里大北里研究所病院婦人科・石谷健副部長は、こう述べる。「中絶の自己負担は少ないほうがよく、公費補助の拡大を求めていきたい。学校などでの適切な性教育を通じて、中絶を減らしていく取り組みも必要だ」

中絶の知識を若者に

 1985年刊の『実践レポート ひらかれた性教育3』(アーニ出版)の著者である北沢杏子さんは、その本の中で、望まない妊娠をしてしまう10代の若者たちに、もっと早期検査や早期中絶の必要性を認識させておけば――と訴えている。北沢さんは丁寧な言葉で、中絶に関する知識として、以下のように綴っている。
《最終月経の第一日目をゼロとして数え始め、四十週が出産予定日となる。(中略)つぎの月経予定日には、もう妊娠四週ということになる。吸引法やそうはで中絶できるのは十一週までだから、少なくとも次の月経予定日の第一日目から数えて二週間後には検査を受けたい。これでも、もう六週から七週になっている》
《十二週を過ぎると胎児も成長、固い背骨などもできてくるし、胎盤も深く根を張るので、そうはや吸引法ではもう無理。特殊な薬や機器を使って子宮頸管をひろげ、点滴などで子宮を収縮させて人工的に流産させるという中期中絶になってしまう。母体の健康にも悪い影響があり、死産届も必要。心身ともに傷つくことを知らせておかなければならないだろう》 

2023年1月28日付朝日新聞朝刊「中絶方法 世界に30年遅れ」

中絶についての基礎知識

北沢杏子著『実践レポート ひらかれた性教育3』

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人工妊娠中絶に関する参照ウェブサイト

 残念ながら、日本の公教育の性教育(包括的セクシュアリティ教育)において、性交、妊娠、出産、避妊や人工妊娠中絶の指導はじゅうぶんとは言い難く、学校現場の裁量によってまちまちである。とくに女性は、望まない妊娠において、リスクが大きい。
 人工妊娠中絶に関して、以下のウェブサイトの参照をおすすめしたい。

  • 安全な中絶と避妊に関する正しい情報を提供する国際団体「Women on Web」はこちら
  • WHOが推奨する世界標準の安全な中絶方法の普及を目標に、署名活動などをおこなっているプロジェクト「#もっと安全な中絶をアクション」はこちら
  • 厚生労働省の「『メフィーゴパック』の医薬品製造販売承認等に関する御意見の募集について」はこちら
〈了〉

【関連ページ】