の話。
寝た子を起こせ。これは一生に関わる大事なことなんだから。

障がいのある子にも性教育を

2023年2月22日

 
 国連の委員会が昨年9月、日本政府に対し、障がいのある人への包括的セクシュアリティ教育をきちんとおこなうよう勧告した――。私が読んだ新聞記事では、都内の小学校の、特別支援学級での包括的セクシュアリティ教育の取り組みが一例として挙げられていた。一般の学級でのセクシュアリティ教育への取り組みとどのように違うのか。また、全ての子どもたちに対しての、本当に必要な性教育とはいったい何なのか。

ある特別支援学級の取り組み

 2023年2月12日付朝日新聞朝刊の記事「心と体学ぶ 障害ある子への性教育」(塩入彩、編集委員・大久保真紀)の中で、昨年12月上旬の、東京港区立赤羽小学校の特別支援学級における包括的セクシュアリティ教育の取り組みの様子がルポルタージュされていた。記事を要約する。
 
 子どもたちは赤ちゃん人形を抱っこして、哺乳瓶でミルクをあげる。ゲップをさせる練習や、おむつを替える練習。瀬野史織教諭がこうした性教育の授業を「キラキラタイム」と名づけた。
 1学期は性器からだの名称や仕組み、洗い方などを学び、2学期は妊娠、出産、子育てなどについて学ぶ。3学期は「いろいろな好き」について、ジェンダーやマイノリティ、障がいなど、多様性について考える。
 特別支援学級には、1年生から6年生まで合わせて9人在籍。障がいのある子は、視覚的にイメージできる方が理解しやすいので、体験型の授業を心がけ、人形や写真、イラストなどを多く使う。
 
 保護者からの性教育の授業をおこなってほしいとの要望から、瀬野さんは6年前から性教育に取り組むようになった。最初は性教育について全く知らなかったため、月経や射精の対処方法を教えるくらいだった。だがそのうち、包括的セクシュアリティ教育の概念を知り、「自分のことをポジティブに捉えるための学びだと気付いた。『自分は自分でいいんだ』と思い、幸せと思える人生を選択するためのアイテムをもたせてあげる教育だと思った」という。
 障がい者望まぬ妊娠や性的搾取に遭うことも少なくないが、障がいのある子どもたちが、正しい性の情報にアクセスすることは、障がいのない子よりもハードルが高いと、瀬野さんはいう。さらには、こうした障がいのある子どもたちにかかわる先生たちの多くが、性教育の必要性を理解しているが、踏み込めていないとも。先生たちの方が性教育を学ぶ機会がこれまでほとんどなく、学校内の協力を得られなければ、特別支援学級での包括的セクシュアリティ教育に踏み込むのは難しいと指摘する。
 2018年の全国の知的障害特別支援学校の教諭にきいた調査では、性教育が必要と答えた教諭は9割を超えたものの、実際に授業経験がある人は3割。「恋愛や交際を扱う発達段階にない」とか、「学級展開の難しさ」、「ノウハウがない」などの要因が挙げられている。

国連の勧告

 国連障害者権利委員会(Committee on the Rights of Persons with Disabilities)が昨年10月7日付で一般配布した「日本の第1回政府報告に関する総括所見」(Concluding observations on the initial report of Japan)は、障がい者の権利にかかわる懸念及び勧告を促した報告書になっている。
 たいへん大雑把になってしまうが、その主旨を述べるならば、平等と無差別の規定をもとにした、障がい者の個人の人権を守るための法律の不備、行政上の不備、障がい者側がそれを申し立てるための救済の仕組みがない、などといった内容になっている。
 
 子どもたちに関する記述では、家庭やケア環境における障がいのある子どもたちに対する体罰や暴力が禁止されていないこと、また子どもたちを保護する対策が不十分であることが指摘されており、災害などの緊急事態時での障がいのある子どもたちに対する配慮、あるいは行政上のサービスが不十分であることなども挙げられている。つまり、障がいのある子どもたちへの性教育そのものを求める記述は、全体のうちの一つに過ぎないのだ。
 その文言の箇所を挙げてみよう。第25条の「健康」の題目の中で、懸念をもって留意するとある。
《全ての障害者、特に障害のある女性及び女児が、他の者との平等を基礎とした、質の高い年齢に適した性及び生殖にかかる保健サービス及び性教育を利用する機会を確保する措置が限定的であること》
 そしてこの第25条と持続可能な開発目標のターゲットとの関連を考慮し、締約国(日本)に対し勧告
《質の高い、年齢に適した性及び生殖に関する保健サービス及び包括的な性教育が、全ての障害者、特に障害のある女性及び女児に対して、障害者を包容し、かつ利用しやすいことを確保すること》
 
 昨年8月、スイスのジュネーブでおこなわれた国連の障害者権利委員会における日本審査には、傍聴団と8つの市民団体が集まったという。そのうちの「国連に障がい児の権利を訴える会」で共同代表を務める児玉勇二弁護士は、委員会のメンバーに日本の性教育の実情を説明し、障がいのある子どもたちの性被害が多いこと、また包括的セクシュアリティ教育がおこなわれていないことを訴えた。しかし、日本政府は、「障害児に対しても健常児と同じく発達段階に応じた性教育が行われている」と答弁を繰り返した。
 

2023年2月12日付朝日新聞朝刊「心と体学ぶ 障害ある子への性教育」

障がいのある若者へのセクシュアリティ教育

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2003年の性教育バッシング

 さらに新聞記事では、2003年7月に始まった東京都立七生養護学校(現・七生特別支援学校)のいわゆる「性教育バッシング」についても触れられている。知的障がいのある子どもたちにおこなわれてきた性教育の実践が、都議から「不適切」「過激」などと非難されて教員たちが処分され、教育現場が萎縮してしまった根深い一件である。
 ちなみに、2005年5月に同校の保護者及び元同校の教員らは、都議らを被告として東京地裁に提訴。2009年3月、東京地裁は被告らに賠償を命じ、2013年11月の最高裁による、2年前の支持判決の上告棄却をもって原告側の勝訴が確定
 当時の裁判で弁護団長を務めた児玉弁護士の言葉が添えられていた。「道徳、純潔教育としての性教育ではなく、性と生の人権教育として、日本でも包括的性教育を行っていかなくてはならない。それが世界の流れだ」
 
 児玉弁護士が述べているように、包括的セクシュアリティ教育というのは、誰もが多様性を認め合い、社会の中で幸福に生きるための人権を守り、全ての教育の根幹部分――あるいは人間の根源的なものを知るための、教育である。
 子どもたちには、包括的セクシュアリティ教育を通じて、ぼくたちわたしたちはどうして生まれ、そしてどこへ向かうのか、生きるとはどういうことなのかを学ぶ権利がある。障がいのある子にも、包括的セクシュアリティ教育が必要であることは、もはやいうまでもない。

〈了〉

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