男に異存はない。包茎の話。

包茎手術の広告〈1〉~週刊プロレス編

2017年7月29日

私のプロレス・ファン時代

 小学生の頃から熱烈なプロレス・ファンだった私は、小学生の高学年あたりから20代後半に至るおよそ17年間、ベースボール・マガジン社の雑誌『週刊プロレス』を、ほぼ毎号買って貪り読んでいた。80年代後半から90年代後半にかけて、『週刊プロレス』(週プロ)はプロレス・ファンにとって“活字プロレス”の守護神でありバイブルあるいは教科書のようなもので、週プロを読むことでプロレスを知り、その面白さを学んだという側面がある(私は対極の雑誌『週刊ゴング』派ではなかった)。ともかくあの頃、週プロを必死になって貪り読んだのだ。貪り読むとは、隅から隅まで、一字も漏らさず読み尽くすということである。
 プロレスについてここではマニアックな話をするつもりはない。が、一応簡単にあの時代のプロレス変遷について触れておく。
 小学生の頃は初代タイガーマスク全盛期で、ファンクスやスタン・ハンセン、ブルーザー・ブロディらが台頭。中学生の頃は長州力、UWFの格闘技スタイルが注目され、元横綱・輪島大士のプロレス・デビューや三沢タイガー、川田利明のニュー・ウェーブ世代の活躍。高校時代では天龍革命、鶴龍対決などがあり、20代を過ぎるとちょうどプロレス人気が絶頂期を迎えて多団体時代となり、三沢&小橋&川田&田上の四天王時代、大仁田厚のデスマッチ人気、蝶野や橋本、武藤ら“闘魂三銃士”と呼ばれた3人の活躍、海外ではアメリカWWFの人気などが挙げられよう。無論、その間の女子プロレスのブームもしかり。テレビ中継を欠かさず観るのはもちろん、年に数回足を運んでいた会場観戦、そして雑誌『週刊プロレス』を毎号読むことが、当時の私の、プロレス・ファンとしての日課であり、その熱烈さ加減を幾分か、理解していただけただろうか。

悩める「包茎」治療広告

 その熱烈さが、ここでは問題となる。とどのつまり、プロレス・ファンの若い男子にとっては、週プロを貪り読むことで、どうしても“ある事”で相対的に「悩み」が増長されてしまうことがあった。その“ある事”とは、「包茎」治療の広告であった。
 
 熱烈であればあるほど、雑誌を隅から隅まで貪り読み、愛読してしまう傾向。それ故に、掲載されていた広告への関心も知らず知らず高まって増幅されていくサブリミナル効果。その面でいうと、泌尿器科・形成外科クリニックの、「包茎」手術を促す広告は、絶大なる効果があったと言わざるを得ない。
 雑誌を愛読することで、毎度お馴染みの広告の内容が、知らず知らず擦り込まれていった。広告の中身に関しては、完全無欠、確実に覚えさせられた。しかし、その大本の知識が、つまりペニスに関する知識が不完全であったのだ。若い10代20代の男子ならば、誰しも自分の性器の「悩み」を抱えているのは当然であろうけれども、いかんせん正しい知識を知らない限りにおいて、その「悩み」が延々と増幅され続いていく。拙い知識しかないから、泌尿器科・形成外科クリニックのそうした広告が眼に入るたびに、一瞬一瞬自問自答する。〈はて、自分のペニスは包茎なのか? 手術が必要なのだろうか?〉。その後、すぐさまプロレスの記事に夢中になって、苦悶はいつの間にかどこかに消える。しかし、「悩み」が解決されたわけではない。雑誌を見開くたびにその広告に眼が移って苦悶が繰り返される。この手の苦悶は、長く、後始末が悪い。

 この現象を、「週プロ包茎シンドローム」と名付けてしまおう。物事を放置し、後回しにしたり考えないようにする症候群。断っておくが、早く手術せよと言っているのではない。広告を見て気になるのなら、どうしてもっと自分で積極的に調べて、「悩み」を解決しなかったのか、が問題なのだ。これは自分のことを振り返っての反省の弁である。それから、滅相もないこと。週プロ編集部にとって、そうしたクリニックの広告主が、どれだけありがたいお得意様であるかは、まったく良く頷ける。マーケティングの極みだ。私は、週プロが悪いとも、広告主が悪いとも言っていない。ただぼんやりと広告を覗き見し、その理解を深めようともしなかった消極的な我々読者が、悪いのだ。
 何故我々は、ペニスについてや「包茎」についての知識が薄弱なのだろうか。言い換えれば何故もっとそれを詳しく、義務教育の現場で学べなかったのだろうか――。
 
 その問題はいずれ別の稿で後述するとして、ここでは実際に(というか参考までに)、当時の『週刊プロレス』を観察してみよう。
 当時の週プロを、ヤフオクを利用して無作為に選んで入手した。No.657、1995年2月28日号。表紙は、当時新日本プロレスのホープだった、天山広吉選手である。うん、懐かしい。あの頃、確かにこの号を読んだ記憶がある。
 
 さて、この1冊の週プロの中に、どれだけ「包茎」手術を促す泌尿器科・形成外科クリニックの広告があるか。要は、その広告の数をカウントしただけなのだが、この号では、5つあった。①コスモクリニック、②神奈川クリニック、③石倉クリニック、④東京上野クリニック、⑤テクノクリニック。言わずもがな(あるいは哀しいかなと言うべきか)、週プロ愛読者なら、この5つのクリニックの社名はすべて覚えているだろう。何故ならほぼ毎号、同じ様な広告が掲載されていたのだから。

 ここでは抜粋して2つのクリニックの広告を見てみよう(この2つのクリニックを抜粋した他意はないのであしからず)。石倉クリニックとテクノクリニックだ。石倉クリニックの方の広告を、敢えて文字に起こしてみる。 
《形成外科・泌尿器科・麻酔科・性病科 石倉クリニック 院長・石倉聡 学生割引有/ローン・カード可/完全予約制/年中無休/AM9:00~PM11:00/診療男性スタッフ》
(『週刊プロレス』No.657、石倉クリニックの広告より引用)
 先に補足しておくけれども、あの頃はまだまだ、ネットのホームページは一般的ではなかった。だから今の時代のように「閲覧して情報を得る」のではなく、「電話をかけて情報を得る」時代であった。広告の下部の地図には、「包茎」専用24時間案内テープと記した電話番号が掲載されている。これはテクノクリニックでも同様、24時間無料案内テープというフリーダイヤルがあって、電話をかけると音声テープが流れて「包茎」治療に関する情報が得られる。どのクリニックでもこうした同じシステムの電話窓口が設けられていたのだ。

 最近、友人と「包茎」の話をしていて思い出したのが、あるクリニックの広告写真のこと。その友人曰く、 “タートルネックのセーターを着た男性が頭や鼻まで隠している=「包茎」”の写真。私も見覚えがある。というかこの手のクリニックの広告の中では、かなり突出して有名な広告写真だ。ある種、定番のパロディであったりもする。
 ネット検索でこれを探してみると、そのクリニックでは、今でも同様のスタイルの“最新ヴァージョン”で、タートルネック広告写真が掲載されていた。ただ、私が記憶している過去のモデルさんの広告写真画像は、ネット検索で見当たらなかった。この広告写真の時代別に関心を持つ人はいないのだろうか。ともかく、かつての週プロを無作為に入手すれば、このタートルネック=「包茎」の過去ヴァージョンを発見できるかも知れない。現時点では課題としておく。
〈了〉

雑誌『週刊プロレス』1995年2月28日号

石倉クリニックの広告

テクノクリニックの広告

クリックすると拡大します。