性教育は自分自身を守るために

2020年12月15日

 
 欧米諸国が国際的な教育ガイダンスをもとに、包括的なセクシュアリティ教育(CSE)を積極的に推し進めている中、日本はまだセクシュアリティ(性)の教育そのものに目覚めていない。
 包括的なセクシュアリティ教育とは、性の認知的、感情的、身体的、社会的諸側面について、カリキュラムをおこなう教育と学習のプロセスを指す。敢えて言ってしまえば、日本の子ども達の教育を担う行政としての政治は、その子ども達のための教育に消極的な面があり、特にセクシュアリティ教育(=性教育)に対しては、ひどく消極的なのである。
 
 性の知識性教育に疎い日本人の現状は、結果的には相も変わらず、若者の性に関する知識が稚拙であって、そのため性被害がより深刻化しており、一方では夫婦間のセックスレスの傾向が、より強くなってきている。
 今年、コンドームメーカーのジェクスと日本家族計画協会が共同でおこなったアンケート調査によると、婚姻関係にあるカップルでセックスレスの傾向が51.9%と約半数にのぼった。16年前の2004年に日本家族計画協会が独自でおこなった同調査結果の31.9%という数と比較すれば、セックスレス化の傾向は顕著である。性の正しい知識を学ぶ努力というのは、根本的には自分自身の幸福を追求し、健康を守るためにある――という意識が、日本人は希薄なのではないだろうか。ここ最近の、に関する新聞記事を取り上げてみたい。

緊急避妊薬の市販化を求める声

 助産師シオリーヌ(本名・大貫詩織)さんが緊急避妊薬をとりまく環境の窮状を訴える市販化の是非の問題は、2020年12月9日付朝日新聞朝刊の記事で取り上げられた。
 記事の見出しは、「体のこと 自分で決める権利を」。YouTubeなどで性教育について発信しているシオリーヌさんは、緊急避妊薬の市販化は「必要」だとし、その理由についても率直の述べた内容となっている。
 
 そもそも、緊急避妊薬とはどういったものなのか。記事内に解説が添えられていたので要約しておく。

  • 緊急避妊薬は、排卵を遅らせる作用がある薬剤である。
  • 72時間以内に服用すると、約8割の確率で妊娠をふせぐことができる。
  • 現在日本では、医師の処方箋が必要だが、海外では、約90カ国で処方箋なしで薬局で買える。
  • 日本でも2017年に、市販化解禁の是非の議論があった。しかし、日本産婦人科医会などの慎重論が押し切り、「時期尚早」となった。
  • 今年の10月、市民団体が解禁を求めるべく、要望書と約10万筆分の署名を厚労省に提出。来年度より、向こう5年間の「第5次男女共同参画計画」案に盛り込まれ、省内で検討が始まる。

 
 シオリーヌさんは、現在の日本で医師の処方箋が必要な緊急避妊薬は、「受診のハードルが高い」と説明する。若い人が婦人科を受診するという心理的なハードルの高さ。また、性的に関係を持ったパートナーがいることや避妊の失敗を保護者に伝えなければならないハードルもある。費用も1万から2万円と高く、受診をあきらめてしまう子もいるという。
 市販化によって容易に入手できることで、安易に緊急避妊薬を使おうとする考えに傾くのではないか――と危惧する日本産婦人科医会の男性幹部の発言が、物議を醸した。これに対し、シオリーヌさんは、《配慮に欠ける発言だと感じました。若い女性が、性に関する知識が足りていないと言われていましたが、若い女性だけの責任じゃないですよね? 性教育を受けていないのは私たち大人も同じです》と話す。 

2020年12月9日付朝日新聞より

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 緊急避妊薬は、WHO(世界保健機関)安全性を保証し、国内の産婦人科医有志の会のアンケートでは、66.6%が市販化賛成という結果もある。つまり「時期尚早」としたのは、婦人科医の総意ではなく、トップの人達の意向なのではないか、とシオリーヌさんは述べる。産婦人科医が医療者として、女性の権利に理解を示さないのはとても残念だ――とも。性的な関係を持つ同意の意思決定(あくまで刑法上は13歳から)は、本人たちにあるのに、学生のうちはそういうことをすべきではないと、他人が口出しする日本人の人権意識の低さに問題があると、シオリーヌさんは説いている。

 性を親子で学ぼう

 学生時代から性の知識がほとんどなく、結婚して妻の冷ややかな視線に喚起され、夫婦関係を良くするためにについて学び始めた、元高校教諭の村瀬幸浩さんの性教育遍歴が記事となった、2020年12月9日付朝日新聞夕刊の「オトナの保健室 性のホント 親子で学ぼう」も、同じくしてやはり結局、日本の公教育におけるセクシュアリティ教育(性教育)の不十分さが指摘された内容となっている。
 
 今年の3月、イラストレーターのフクチマミさんと共著で『おうち性教育はじめます』(KADOKAWA)を刊行した村瀬さん。既に11万部を突破したという。
 中学高校の6年間を男子校で過ごし、性教育をまともに受けた記憶がないと述べる村瀬さん。の情報と言えば男同士の猥談やエロ本で、かつて日本の学校現場でおこなわれてきた性の「純潔教育」では、男子は枠外におかれていた――。
 大学時代からの交際により23歳で結婚妻と同居し始めてから、妻の月経痛の無理解や偏見で気持ちのずれが気になったと村瀬さん。それから性に関する専門書を読み漁り、女性の性やセックス観を学ぶ。高校では保健体育の教諭をし、性教育に本腰を入れた。そして1982年に「“人間と性”教育研究協議会」(性教協)https://www.seikyokyo.org/を立ち上げ、一橋大や津田塾などで講師を務める。その頃から「性の多様性」がテーマとなることがあり、ゲイの男性に対する偏見が自身にあったことを悔い改めていく。
 
 性に関する講演などをおこなえば、依然として保守的な人達や団体からの抗議があるという。性や性教育に対する偏見も、歴史的に根深い。性やセックスは科学的な知識が必要なのに、教わる機会のなかった大人たちの偏見やゆがんだ考えが、子ども達の学びを阻んできたのではないか村瀬さん。日本の性教育「生殖」に重きを置かれていて、「快楽」と向き合わず、自己中心的な「快楽」の追求になりかねない。それは相手を虐げる支配になるのだと。
 人間の性を本能として受け止めるのではなく、知的で文化的な営みであることを学ぶ。それは、より良い人間関係のために――。子ども達の性の質問にしっかりと立ち向かうためには、まず性を学んでこなかった大人たちが学び直すことが必要だと村瀬さんは説いている。

〈了〉