の話。
寝た子を起こせ。これは一生に関わる大事なことなんだから。

慶應ボーイが子宮頸がん検診を受けたの話

2017年9月7日

子宮頸がん? 

 先日、新聞を見たら、こんな見出しを発見した。「慶應男子 子宮頸がん検診を受けた」
 そう言えば子供の頃、児童向けの科学ミステリー本で、ある外国人男性が“妊娠した”云々の話を読んだことがある。その男性には「子宮」があるとかどうとか、ちょっとびっくりするような内容が記されていたのだけれど、新聞の記事を読んだとき、俄にそのことを思い出し、慶應の学生にも「子宮」をもった男子がいるのだな、と私は別段動じない、真に受けてその見出しを読み解いた自分自身に、少々驚いてしまったのだった。
 
 その見出しは、HUFFPOSTのブログを紹介した見出しであって、本ブログの見出しは「モテない慶応男子が、子宮頸がん検診を受けに行ってみたら」である。そのモテないという筆者は、慶應義塾大学総合政策学部2年の和田吉平さんだ。
 女の子にモテるには、女性特有の悩みに答えられる男子にならなければと考えた和田さんは、サークルの先輩に紹介してもらった一般社団法人シンクパールで、婦人科系検診を実際に体験してみたのである。それが「子宮頸がん検診」であった。この発想が実にぶっちゃけていて面白い。
 
 「子宮頸がん」は、子宮の入り口にできる癌(がん)で、発症原因は主としてセックスによるHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染によるものだという。20代から30代の女性で多く、定期検診と予防接種でほとんど感染を防ぐことができ、他の癌と同様、早期発見が望ましい。
 しかしながらこの「子宮頸がん」についてよく知らない女性が多く、諸外国と比較して検診を受ける割合が日本は著しく低いそうだ。特に20代での受診率が低く深刻であるという。自覚症状がほとんどないことも、癌の発見を遅らせている要因にもなっている。

内診台で大股を広げた慶應ボーイ

 和田さんのブログでは、実際に彼が「婦人科検診車」に乗って、内診台に座った画像が掲載されていて、男性である私としてはとても興味深かった。普段、健康診断などで乗り慣れているレントゲン車よりも清潔感があり、落ち着いた感じがして、車内はやや広い印象を受けた。男性である和田さんが実際に内診台に座って股を広げている姿(本人曰く《とんでもない開脚度合い》)は思わず笑ってしまうが、現実としては笑っていられそうもない。
 
 和田さんはブログの中で、《「女性」についての知識は、中学の時に学んだ保健の授業止まり》と述べている点で大いに刮目する。今回の体験を女性の友達らに話したところ、別に笑われるということもなく、またモテそうになったということももちろんなく、友達らは「子宮頸がん」について意外と知らず、逆に検診に関心を持ったり、産婦人科に相談してみようという気になった、というようなことが書かれてあって、私も驚いた。

 女性は自分の膣や子宮のことを当然ながらよく知っている、と男は勝手に思い込んでいる。また女性は、男性なら自分のペニスのことをよく知ってるはず、と思い込んでいるに違いない。実は知らないのである。ましてや、異性の性器についてはもっと知らない。何も知らない者同士が、避妊の知識も乏しくあやふやにセックスをするのだから、望まない妊娠をしてしまう可能性だって高いわけだ。
 自分たちの「性」に対する知識が、常に更新されていくものではなく、和田さんと同じように中学生時の保健の授業で止まっているといった感じで、ヘタをすれば大人になるにつれて「性」の知識が忘却=無知化していく傾向にあることが非常に不安だ。その一つの例として挙げた「子宮頸がん」に関しては、本来なら10代のうちに知っておくべきことなのに、知らない人が多い。検診率が低い。これって日本、マジやばいよね、という話である。
 
 「子宮頸がん」の話は、このサイトにおいて男子にまつわる「包茎」の話から大きく逸脱しているかに見えるが、根っこの部分の誤解や偏見、無知といった観点でまったく同じであることに気づかされる。
 根っこの部分とはすなわち、成長してやがて成人となる「体」と「心」について健康に関する知識や予防病気やけがに対する対処法、そしてそれらに必ず付随するお金の問題のこと。要するに、個々が元気で幸せに生活するための様々な知識を(それこそ若いうちに知っておいた方が損をしない知識を!)、これまであまりにも軽んじて真剣に考えてこなかった、教えられてこなかったということだ。中でも特に大切な、自分の「体」と「心」に関する知識は、生活や環境の変化に伴って常に更新されるべきものなのに、私たちの知識はどこかで止まったまま、古いまま――。
 まあ、絶望する事なかれ。そう、本当にモテたいと思うならば、まず自分が健康であること自分の「体」と「心」についてよく知ること。和田さんの行動は、まわりまわって結局、正しいということなのだ。

〈了〉

9月5日付朝日新聞朝刊より

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