の話。
寝た子を起こせ。これは一生に関わる大事なことなんだから。

動画『教えて!性の神さま』―ブレイクスルーの性教育プロジェクト

2019年3月26日

ブレイクスルーの企画「もうひとつの“性”教育プロジェクト」

 3月4日、たまたま新聞のテレビ番組欄を眺めていて、《ハートネットTV「もうひとつの“性”教育プロジェクト Action 7」》という番組(Eテレの夜8時枠)を見つけた。まことに申し訳ないことに、ハートネットTVは今まで観たことがなかったのだが、さてどういう番組なのだろうかと思い、録画した翌日に番組を観たのだった。
 
 ハートネットTVの企画“ブレイクスルー2020→”(社会における人々の生きづらさの壁を壊そう、未来を切り開いていこうというような企画)の一環としていたこの番組「もうひとつの“性”教育プロジェクト」は、文字通り、性教育の話である。司会は風間俊介さん、現代美術家の渡辺篤さんや文筆家の牧村朝子さんらが出演(“性の神さま”=じゅんいちというキャラも登場)。
 昨年の春にスタート(放送日は2018年4月9日)したこの番組プロジェクトは、今の日本の性教育の、足りない面(頼りない面)を危惧し、その在り方について現場の学校を取材したり、性について討論してきた番組なのである。具体的な進行としては、10代の若者が直面する性の様々な疑問や悩みを共有していく取り組み――「性教育の教材づくり」――というのが主眼だったようだ。ここで挙げる教材制作というのは、「性の疑問に答える動画」づくりである。3月4日の放送回(Action 7)では、その1年間の進行のまとめ、総集編的な内容となっていた。
 
 動画は、昨年の12月に完成したという。完成時の模様は12月3日に放送された。プロジェクトのメンバーによって制作された、性の疑問に答える動画(性のギモン動画)は全20本ある。動画のタイトルは「教えて!性の神さま」。トークの中心は、タレントのぺえさんとゆきぽよさん。それに“性の神さま”じゅんいちが登場し、キャラに身が入らないゆるいコメントで悩みに答えていたりする。
 この20本の動画「教えて!性の神さま」は、“男の子のカラダ”、“女の子のカラダ”、“避妊・性感染症”、“LGBTs”、“こころの悩み”の5つのカテゴリーに分かれていて、それぞれのカテゴリーに関連した性のギモンと解説が短い尺で構成されている。動画はすべて、NHKのホームページで視聴することができる(https://www.nhk.or.jp/heart-net/oshiete-kamisama/)。※削除されないうちに早めに観ておくことをお薦めする。

リアリスティックな女性器のイラストも

 参考までに、“男の子のカラダ”カテゴリーの動画を3つばかり紹介しよう。
 1つめ、「仮性包茎はむけていた方がいい?」は、1分20秒ほど。10代の男子の「仮性包茎」の悩みについて、ぺえさんとゆきぽよさんが個人的な意見を述べている。“性の神さま”じゅんいちは、「仮性包茎」は大きくなった時に出てくるから悩むほどではない、と話す。でも「真性包茎」はずっと皮が被っているから、性の関係になっていく時にちゃんとできるかどうか心配になる、とも。まとめ役のナレーションは、NHKの数々の番組で落ち着いた名調子の語りをこなしてきた大ベテランのあの山根基世さん。アニメーションによる表現で「仮性包茎」自体はちゃんと洗っていれば医学的問題はない、としている。
 2つめの動画。「ペニスは大きい方が女性はいいの?」。この強烈なギモンに対して二人のトークは、かなり率直だ。ペニスは大きい方が女性は快感を得やすいのか? という10代男子のギモンであるが、ゆきぽよさんは、“気持ちの問題”だと答える。ペニスの大きい小さいは関係なく、自分が相手をどれくらい好きか、相手からのその時の愛(が大事)。ぺえさんは、男らしい=(ペニスの)大きさではないっていうのはわかってほしい、と話している。
 3つめの動画。「テクノブレイクって本当?」。このギモンはけっこう、ネットのごく一部でちょっとした流行りネタになっていたりする。男子のあいだでは特に急増、かなり多くの子が気にしているオナニーの悩みと受け取るべきか。マスターベーションをし過ぎると死ぬ=テクノブレイクという噂が、若い子のあいだでけっこう浸透しているのだ。が、言うまでもない。医学的事実はないとのこと。マスターベーションをし過ぎると頭が悪くなるとか、身長が伸びなくなるという噂もウソ。いくらウソなんだよと断言しても、なかなか信じないで真に受けている男子は少なくない。
 
 ちなみに話は変わるが、“女の子のカラダ”カテゴリーに「タンポンで処女膜は破れない?」のギモン動画がある。この動画では、ちょっと露骨な(リアリスティックな)女性器のイラストが出てくる。放送メディアとしては、一つ大きな殻を破った感の強い、たぶん賛否両論あるだろうイラストの説明表現である。ギモンの内容自体も、学校の保健体育ではおそらく教えてくれないであろうし、質問する方もしづらい(タブーに近い?)。
 しかしだからこそ、取り上げるべきなのだと思った。今日の性教育の観点では当たり前のイラスト図解であるが、前近代的なメディアにとっては、英断――であったかも知れないのだ。

直球の疑問のテイストはまさにリアルな自分達のコトバから

 プロジェクトに参加したという高校生達が、番組の中では紹介されていた。吉祥女子中学・高等学校(東京都武蔵野市)の女子高校生と、埼玉県立浦和高等学校の男子生徒。吉祥女子中学・高等学校では、オリジナルの教科書を用いて、新機軸の包括的性教育(CSE)の取り組み(「性とは生である」の保健授業)をおこなっているらしい。浦和高校では平成26年より、文科省のSGH(スーパーグローバルハイスクール)の指定を受け、グローバルな環境の各分野で活躍できる人材育成に努め、そのうちの取り組みにおいては、性教育に即した講座も開かれている。
 20に厳選されたギモン(動画)は、実は彼らの協力が大きかったようだ。さすが10代の高校生達と思える、この20のギモンの“直球”の度合いが強いテイストは、まさに彼らが学校で、生徒らの意見をリサーチをし、その中からリアルな意見を集約したものであって、そうでなければこのプロジェクトは意味がなかったのだ。Eテレの番組としてもかなり突っ込んだ中身となり、ゆえに反響も大きかったらしい。
 
 性に関するギモンのテイストの根幹は結局、異性のからだや心に対して、自分達はまだ何も知らないのだというところから来ている。例えば女子は、男子のペニスのことがよく分からないから知りたい、男子は逆に、女子の生理のことがよく分からない、といった実態的な無知とか無関心だった部分も、こうしたギモン動画をつくることによって、同じ無知と無関心だった者がそれ自体に性の関心をもってもらえる。こうした、正しい知識への入口となる点において動画という手段は、まさに恰好のトレンド・メディアだと言っていいだろう。

性の“タブー視”と“恥ずかしい”をどう乗り越えるか

 番組「もうひとつの“性”教育プロジェクト」は、若者達が本当に知りたい性の知識、からだと心の悩み、性感染症や性被害、LGBTなどについてのいわゆる包括的性教育(CSE)に関して、なかなか愚直に、真摯に取り組んできた様子が窺えた。今日の開かれた多様性の時代においても、まだまだ性のことをタブー視し、恥ずかしいと思って遮断してしまう人達が多くいるはず(性の知識と性欲とをごちゃ混ぜにしてとらえてしまっているせいだ)。
 しかし性については、ひとりひとり確実に必要な知識なのであって、それを学び知るのは早い年齢が望ましい。したがって、タブー視して蓋をしてしまうその行動性の心理の壁というものを、どう壊していくか、あるいはどう壁を作らないように留意すべきか。これがハートネットTVが抱えた企画、ブレイクスルーの本義だろう。
 理解と共感を得るには少々時間がかかり、難しい面もある。が、この番組が一つの突破口になった、気がするのだ。放送メディアはこれに追随せよ、と私は言いたい。然るにこれは、風間さんの躊躇せず表現をごまかさないパーソナリティに扶けられた面がたいへん大きいと思う。風間さんには、今後もこの方面で是非活躍していただきたいと願う。
 
 そもそも学校で教える性の知識というのは、本当に10代の若者のからだと心のケアに役立っているとは、とても思えないのである。中学校では、「性交」という言葉を使って教えない、教えられない、という文科省の壁がある。「性交」は使えず、「性的接触」の表現が望ましいというのは、どう考えてもおかしい。何故なら、「性的接触」という言葉に、が微塵も感じられないからだ。
 学校の保健体育の教科書って、「自動車教習所の教科書みたい」と番組の中で意見を述べたのは、漫画家の沖田×華さんだ。まったく言い得て妙である。「何も自分の答えになることが書いてない」というコメントも印象に残った。

若者達は自ら活動を

 学校の性教育だけでは不十分だ、といったところから意見を吸い上げ、性にまつわるあらゆるデマやウソやタブーを取り除き、生きづらい若者達を支援しよう、今の時代に見合った包括的性教育を広めよう、その教材づくりをしよう、性教育の動画を制作しよう、というのが「もうひとつの“性”教育プロジェクト」の主旨であったと、私は理解する。
 が、要するに、ここが肝心なことであるが、若者達(に限らず誰しも)は自分達の手で、自分達の性について知りたいことを調べ、そして正しい知識として広く共有しよう――という運動もしくは活動が広まっていってもおかしくない時代なのだ。それに関しても日本は、諸外国と比べて後れを取ってしまっているが、もっとポジティヴに、若者達(に限らず誰しも!)は、セクシャルなケアに関する知識を高めるような、サークル活動を大いにすべきだし、番組のプロジェクトに倣い、生きづらさを抱えがちな若者や社会人の手助けとなるような、性の多様性の問題についても議論すべきなのではないか。
 
 性感染症の予防性被害の対処法にばかり目を向けがちな(ほとんどの保健体育の教科書がそのような傾向になりつつある)、学校の保健の授業というのは、互いの共存と親身な関係の底辺に、がなくてはならないのだということを何も教えず、むしろそののことを忘れさせようとしてはいないか。若者達のメンタルな部分のケア・マネージメントについて、性被害の対処法云々に限定せず、もっともっとメディアのあいだでも、また親密な若者達のあいだでも、そもそものについての議論を広めるべきだろうと思う。「もうひとつの“性”プロジェクト」は個人的にもたいへん良いヒントを与えてくれた。

〈了〉

これが“性の神さま”じゅんいち

もうひとつの“性”教育プロジェクトでは高校生らが協力

番組の司会は風間俊介さん

出演者は渡辺篤さん、牧村朝子さん

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