【特別編】奈良林祥の
セクソロジー講義集
さらなる性の知識の泉へ!
おっきいペニス信奉と包茎のこと
性器の悩みを抱えるボクたち
男性諸君の性器=ペニスに関する悩みで多いのは、包茎、早漏(そうろう)、ペニスの大きさ――といったところだろう。それぞれが何のことかよく分からない若い女子のために、少しばかり説明しておく。
まず包茎というのは、国語辞書にある文言を並べると、一般的に、「成人を過ぎた陰茎の先が包皮に包まれたままになっていること」ということになる。男子ではこれがかっこ悪い、恥ずかしいと思っている人が少なくない。2つめの早漏とはどういうことかというと、セックスやマスターベーションの時に「射精が早すぎる」こと。ちなみに、これとは逆の「なかなか射精できない」ことを遅漏(ちろう)という。3つめのペニスの大きさに関しては、男は自分のペニスの大きさが人よりも小さいのではないかと悩み、心情的に、他人のペニスの大きさを気にしてしまうものなのである。
20歳を過ぎているのに自分のペニスは包皮で包まれたまま=包茎で大丈夫なのか? とか、セックスの時にすぐにイってしまう(=早漏)とか、自分のペニスは小さいから、セックスの時に相手に笑われてしまうのではないか――といったコンプレックス。場合によってはこの3つ、すべて自分に当てはまってしまうという男性にとっては、潜在的に「セックスをすること」に対して苦手意識をもってしまうことが多い。
おっきいペニスに憧れるボクたち
まず、ペニスの大きさの悩みについて語ろう。奈良林祥先生の名解説を『HOW TO SEX 性についての方法』(KKベストセラーズ)の中から要約していく。
そもそも男性諸君は、自分のペニスよりも大きいペニスについ憧れてしまいがちである。大きいペニスは精力が倍くらいありそうとか、ペニスは小さいより大きい方が絶対いいに決まっている、と思い込んでいる人が多いようで、ペニスが小さいと、セックスの時に女性をじゅうぶん楽しませることができない、馬鹿にされてしまうのではないか、なんてマイナスの想像が働いてしまったり。いっそ、整形手術や他の治療法で、ペニスを増大させてみようか、といったことまでウジウジと考えるのが、世の男性の普遍的な心情であるかも知れない。
その気持ちはよく分かる…。が、はっきり言うと、ペニスの大きさで男の値打ちは決まらない。
もともと、人の性器の大きさや形というものは、実に気まぐれなものなのである。性別にすら、直結していないことがある。例えば、まぎれもなくその人は男なのに、性器だけは女なみというスポーツ選手が、突然表舞台から姿を消したり――。
性別というのは絶対不変で、受精した瞬間から、男は男、女は女と、生涯変わらない。しかし、性器は違う。精子と卵子が受精してから3ヵ月くらい経って、ようやく形作られる。だから、自然の気まぐれで、男として生命が始まったのに、性器は女のそれ、ということも起こりうるのである。
これはつまり、厳密に言うと、性器の外見だけでは性別の判断はできない、ということである。オリンピックに出場する選手の公式検査でセックス・チェックがあるのはそのためだ(※公認スポーツ競技とりわけオリンピックの大会における性別確認のための身体検査ポリシーは、現在においても様々な問題点や、個人にとって不都合な倫理的違和の課題を抱え、改善が求められている)。
性器というのは、思っているほど確定的なものではないのだ。むしろ頼りないものであると思っていた方がいい。ペニスのサイズが人それぞれ大きかったり小ぶりであったりするくらいのことは、あって当然だし、その大きさが個人の人格そのものを左右するほどの確定的なものでは一切ない。例えば、筋骨隆々のハリウッド・スターが、案外小さめなペニスであったりすることもじゅうぶんあり得るわけで、たとえペニスが小さかったとしても、人格がそのことによって過小評価される筋合いのものではない。
こと性機能に関しては、驚くべきことに、ペニスの大小はまったく関係がないのだ。
つい男性は、ペニスが大きければ大きいほど、女性は強烈な刺激を受けるだろうと想像してしまうのだが、腟は本来伸縮自在であり、太めのペニスが入ればそれ相応に拡がり、小ぶりのペニスであれば、それ相応に締め付けてくれるのだ。腟という器官は実に適応性が豊かなのである。
しかもこの腟は、まったくもって鈍感だ。ペニスが大きいとか小さいとかをそれ自体で知覚することは、ほとんどできやしない。女性の性感というのは、むしろ脳の働き具合いかんで、挿入されたペニスを誇大に感じたり小ぶりに感じたりするのであって、ぞっこん惚れた男に抱かれていれば、それはもうペニスは大きいのだという心理的な想像が働いて、性感の度合いは倍増する――というだけの話である。だから決して、腟でペニスの大きさを感じ取って(知覚して)いるわけではないのだ。
男の第二の人格的象徴であると信奉してきたペニス(日本古来の呼称で男根とか陽根)が、実は生まれてくる時にほとんど、自然の成り行きでぽんとハンコが押されたように股にくっついてくるだけのことだという、すなわち第二の人格的な象徴でもなんでもないのだ――というこれまでの話は、ご理解いただけただろうか。
それでもどうしても、自分のペニスの大きさが気になる、ぜひ測ってみたいという人は、その長さの定義について図に示して(※『HOW TO SEX 性についての方法』の中のイラストを再構成して)みたので参考に。図におけるAからBまで、つまり陰茎根部から陰茎の先端までが「陰茎の長さ」であり、図におけるCDすなわち陰茎の周囲の長さが「陰茎の太さ」ということになる。
ボクの早漏は包茎のせい?
セックスの時に“あんたは早漏なのね”と言われ、その原因は包茎だからだと信じている人がいる。確かに自分のペニスはふだん、皮が被っている。だから早漏だ、だからすぐにイってしまうのだと思い込んで、包皮切除手術を受けた男性がいる。本当に包茎だと早漏になりやすいのであろうか。
包茎だと早漏になりやすいというのは迷信であり、包茎は早漏の原因にはならない。早漏はあくまで心の問題、それも深層心理的に何か原因がある場合が多く、直接、ペニスの亀頭が包皮で覆われているから早漏になる――というような単純なことではないのである。
包茎に関しては、あくまで包皮が亀頭を覆っているかいないかの、性器の見た目の問題に過ぎない。ふだん包茎の状態であっても、自分の指で包皮を後退させて亀頭を露出させることができれば、セックスに何ら支障をきたすものではない(→不完全包茎。日本ではこれを仮性包茎と言っている)。
包茎の切除手術が必要な場合(→完全包茎。日本ではこれを真性包茎と言っている)というのは、自分で包皮を剥こうとすると固くて剥けなかったり、痛かったりする場合である。そういう人は手術を受ける必要がある。が、そのケースはごく稀な例だ。
美容整形を医療手術の問題にすり替えた包茎
ここからは、包茎に関する私なりの補足。
実を言うと、ほとんどの成人男性は、普段から包皮が亀頭を覆っている(※宗教上の理由で幼少期に割礼(包皮切除手術)をおこなった人以外)。日本人のあいだでは、銭湯などで他人の、亀頭が露出したペニスを見る機会があるかも知れないが、そうした人でも人目にさらす時だけ見栄を張って包皮を剥いている場合が多く、普段は包茎の状態だったりする。欧米やその他のアジアの国々の男性のペニスも、ほとんど包茎である(90年代後半、インターネットの普及でそのことがバレた…)。
日本人はこれまで、こうした包茎を不潔だとか短小だとか早漏の原因になるなど迷信を並べ立ててきた世俗的な文化史がある。亀頭が露出したペニスを「優」とし、亀頭が露出していない包茎のペニスを「劣」あるいは「異常」とした、無意味な評価を相互に流布し、それを鵜呑みにした若者男性は包茎を不安視し、女性もこうした迷信や無意味なペニス評価を信じ込み、包茎は早いうちに手術せよ――といった美容整形系のクリニックの魔術的な商業広告に煽られてきた側面がある(タネを明かせば、あくまで美容の問題を医学的な問題のようにすり替えた論法)。
男は「剥く訓練」をせよ
何度も言うが、医学的には、自分で包皮を剥くことができるのであれば包茎は何の問題もない。むろん、小学生高学年だとか中学生くらいの時に初めて包皮を剥いた時には多少、包皮が固くて剥けなかったり、痛かったりする。しかしそれは、包皮がまだじゅうぶんに後退に慣れていないのだから当たり前の話であって、徐々に少しずつ「剥く訓練」をしていくと、そのうち包皮が剥けやすくなり、痛いこともなくなる。
小便をする時に必ず包皮を剥くこと。また風呂に入った時に必ず包皮を剥き、洗う習慣をつけること。マスターベーションでは、必ず包皮を剥いてすること。これらが「剥く訓練」ということになる。
何より、ペニスの包皮というのは、ふだんから亀頭(性感帯)を傷つけないための重要な皮膚(カバー)なのだ。
【講義のポイント】
- ペニスの大きさでセックスの歓びが増すわけではない
- 腟はペニスの大きさを感じ取ることはできない
- 早漏の原因は包茎とは無関係
- 包茎は完全包茎でなければとくに手術する必要はない