【特別編】奈良林祥の
セクソロジー講義集
さらなる性の知識の泉へ!
最高のセックスは愛撫によって決まる
セックスは結合だけじゃダメ?
こんな夫婦の悩みがある――。
性行為というのは肉体の交わりであるから、結婚してから3年間、夫である私は、せっせとセックスに励んでいたのであるが、妻は不満を漏らす。「あなたは心を込めて、愛撫をしてくれないじゃないの」と。そればかりか、妻の方から私の体に触って刺激を与えようとする。どうやら女性向け雑誌に、愛撫(ペッティング)というのは豊富にするほど、性生活がずっと楽しくなると書いてあったらしい。うーん、少々妻は、そうした雑誌の読み過ぎなのではないか。
私たち夫婦は結婚してすぐに妊娠しているし、妻だってそれなりに快感を感じているだろう。キスだってするし、乳房に触れたりだってするのだから、セックスするのにいちいち愛撫だのと余計な時間をかけていられるほど、男はヒマじゃない。女だってそれくらいのことはお判りでしょう。みなさんはいかがですか?
医学博士・奈良林祥先生の名著『HOW TO SEX 性についての方法』(KKベストセラーズ)より、ここでは愛撫(ペッティング)についての講義を要約していこう。ちなみに愛撫=ペッティング(petting)とは、性交をともなわない性的技巧のことを指す。
愛撫は言葉と手と口を使ってするもの
もし、性行為(セックス)が妊娠を目的とするものであるのなら、夫婦が子どもを持つための義務のようなものであるからして、男だけが納得して、性の営みに愛撫というものは必要としない。腟がそこにあるから挿入する…で男はそれで済んでしまう。
しかし、本来セックスは、妊娠を目的とする以外に、相手と触れ合うことが楽しくて仕方がないという歓びを分かち合うもの、愛情を確かめ合うということの行為であり、率直に心と体の快感を楽しむという目的もあるのだから、男が腟にペニスを入れて、はいおしまいです…というのでは、あまりにも情けないし、つまらない。もっと、お互いの愛情表現を豊かに、性生活を楽しむ方法として、歓びの演出法としての、愛撫(ペッティング)という性行為(性的技巧)があるわけだ。
好き、大好きだ、おまえが欲しい――と「言葉」で、愛を表現する。なんだそんなこと?? 男にとってはこれは驚くべきことかも知れないが、これもまた「サイコ・ペッティング(精神的愛撫)」といって、愛撫としての効果に意味があり、意外なほど、女性はこうした「言葉」による愛撫に感じやすい。男は主として、生理的力で性を行動するが、女は主として、心理的支援によってはじめて、性の興奮をもたらすものなのである。男性諸君は、このことについてよく覚えておいた方がいい。
愛撫(ペッティング)っていうのは、肉体を刺激してやりゃあいいんだろ、と考えるのは最低の理解の仕方だ。まず「言葉」で愛を表現し、伝えることができなければ、人間らしいセックスとは言えない。セックスは歓びの起爆点としてあるもの。ペニスを腟に入れるためにあるのではない。愛撫で歓びを表現し合い、思う存分嬉しがり、最後に到達するのがあくまで性器の結合である。つまり、セックスの目的は、お互いの愛を確かめ合い、歓びを爆発させること。性器の結合なんていうのは、そのためのほんの最後の締めくくりの姿に過ぎないのだ。
ところで、愛情表現というのがよく分からない、難しく考えてしまう人がいるのなら、こういう例を思い浮かべて欲しい。
スポーツ観戦で熱くなって、夢中になることが誰しもあるでしょう。もうその競技の試合に夢中になって、自分は周りが見えなくなり、わーと騒いだり、飛び上がったり、周りの人の肩を叩いたり頭を叩いたり、感動して泣いちゃったりすることも。あれです。ああいうふうに、スポーツに夢中になって、周りが見えなくなって、歓びだとかいろいろな感情が剥き出しになって体が動いちゃうこと。
性行為もまったく同じ。好きな人と一緒にいて、気持ちが熱くなって夢中になり、他のことは一切気に入らなくなる状態。そして目の前にいる相手に対して、とにかく何か「言葉」で愛を表現したくなり、抱きしめたくなったりする。さらにもっと欲求が深まってきて、相手の体のあちこちに触れてみたい、唇の感覚で探ってみたい、気持ち良くなりたいと興奮してくること。これが愛情表現。むろんこれは、健康かつ健全な行動である。
こうした愛情表現、すなわち愛撫(ペッティング)のやり方にルールや作法などというものはない。よく男の人で、自分で考えてきた“愛撫の献立表”にのっとってあれをやり、これをやり、次にこれをやってあれをして、などと順序を決めてする人がいるけれど、まったくナンセンス。それでは相手も自分も、ぜんぜん気持ち良くなくて熱情が冷めてしまうだろう。愛撫というのは、もっともっともっと、真に夢中になってするものであり、それは無秩序なもので、衝動的なもので、突発的なもので、時に荒々しく、また逆に優しく静かなものであったりと、感情に揺さぶられるものでなければ意味がないのである。
そうしたおもむくままの愛撫の具体的な行為というものを、敢えてカテゴリーに分けるとすれば、人間の愛撫の仕方はたった3つの方法であり、それは「言葉」、「手」、「口」である。このうち、「言葉」による愛撫を「サイコ・ペッティング」という――というのは先に述べたが、「手」と「口」を使った、すなわち抱擁だとかキス(接吻)だとか指による刺激(フィンガーリング)などという肉体への愛撫のことを、「ソマト・ペッティング」という。
抱き合うのはセックスへの基礎工事
とくにこのうちの、抱擁(抱きしめる)という愛撫の方法は、パートナー同士の普段の冷静沈着なる日常生活から、いっきに性行為への気分へと、その心と体の熱情を盛り上げていくための大事な、基礎工事的な役割を果たしてくれる。「言葉」による愛撫はきわめて人間的な、社会的かつ高度な愛情表現であるが、この抱擁という技巧は、人間的ではあるけれど、非常に動物的な感覚にうったえる愛撫の手段であり、直接的でもある。したがって、単純な技巧であるからといっておろそかにすべきものではなく、何度も言うように、抱擁は深まる愛情表現の基礎なのだということを、じゅうぶんに理解しておかなければならない。
現代人(あるいは日本人だけなのか?)は、とかくキス(接吻)という愛撫に重点をおきすぎ、そのキスをお互いの情愛の指標的な基準としたがる傾向が強くある。とくに10代のカップルにおいては、街中であろうとどこであろうと、ところかまわずキスはよくするのだが、それに比べて抱擁の頻度のなんと少ないことだろう。唇を使った愛撫=キスよりももっと、抱擁という愛撫を重要視して、その度合いを深めていくべきではないか。とかく、夫婦生活において、抱擁による愛情表現がないがしろにされていると思わざるを得ない。
愛撫から愛撫へのイマジネーション
ベッドで共に座った状態からオーラル・セックスへ――。力強く両腕で、相手の肩のあたりを抱きしめる。片方の腕を、背中から腰のあたりまで滑るように移動する。もう片方の腕も、腰のあたりまで下げて、両腕に力を込める。そうして二人の密着した下半身は、抱きしめることでさらに強く圧迫し合う。
頬ずり、深いキス。唇を移動させ、耳、眼瞼(まぶた)、鼻、頬、首筋へと軽やかに転じていく。抱きしめていた腕を、もう一度肩の方へゆるやかに移動させ、相手の身にまとうファスナーやフックを外していく。そして左右のてのひらで乳房をすっぽりと包み込む。
唇を首筋から肩へ、肩から首筋へと舐めるようにして移動させる。両腕は再び背後へと移し、相手の胸のあたりを強く締め付ける。この時、相手の体をベッドに押し倒す。押し倒された相手は、その上にのしかかる男の分厚い胸に激しく圧迫され、男はさらに、てのひらを相手の乳房に包み込んで休みなく刺激を加える。
乳房全体をてのひらと指で優しく、時に強く愛撫するマッセル。乳頭を指でつまみ上げたり、はさみ上げたりするタポートマン、てのひらや指の腹で乳頭の表面を軽く撫でるように滑らせるラビング。それから、指先で乳頭の先端を、軽くリズミカルに叩いてやるタッピング。これらの指による愛撫(フィンガーリング)で相手の興奮を鋭く高めていく。この時、既に相手も高い興奮状態にあるのなら、男の乳房を吸引したり、指先は男のペニスをまさぐろうとするだろう。
唇を使った愛撫やフィンガーリングによる刺激の効果を相乗的に高めているのは、何より抱擁である。腕を巧みに移動させ、強い刺激、弱い刺激を相手の体に与えて変化させていく抱擁こそが、お互いの情欲をより未開の感覚へと昇天させ、気分を盛り上げていく手段なのである。
愛撫はさらに深く、展開されていく。キスにも、異なる刺激の種類がある。ごく軽く唇を当てるグッドナイト・キッス。深々と吸い合うディープ・キッス。舌をからませるフレンチ・キッスなど。唇と唇によるキスのみならず、身体へのキス、性器へのキスと、範囲を拡げていかなければならない。
性器へのキスの愛撫には、女性が男性のペニスに唇や舌を使って刺激を与えるフェラチオ(日本では昔、尺八といった)や、男性が女性のクリトリス(陰核)や外陰部に唇や舌を使って刺激を与えるクンニリングスなどがある。俗に言うシックス・ナインとは、MGK(ミューチュアル・ジェニタル・キッシング)のことで、すなわち相互性器接吻である。女性は男性のペニスを口腔内で刺激し、同時に男性は、女性の外陰部を唇や舌で刺激するオーラル・セックスの代表的な技巧。
外陰部への密やかな愛撫
オーラル・セックスにおける最高の愛の頂点は、女性の外陰部への、フィンガーリング及びクンニリングスである。
女性を左腕で横抱きにし、ディープ・キッス、フレンチ・キッスを与えながら、右の指を外陰部へと運ぶ。しかしここで、先走っていきなりクリトリスに刺激を与えようとするのは、女性の繊細な性感の高まり方を知らない愚かな男のやり方である。
あせることなくまずは、左右の小陰唇の外側を、人差し指と薬指で軽くはさむ。この時、中指の腹で左右の小陰唇の上端に当てる。ここで入念に、ゆるやかなブラッシングを試みる。時々、指を撫で上げた終点に当たるクリトリスの先端を、中指の腹で軽くタッピングする。そうして、人差し指と薬指でクリトリスを左右から押さえる運動をまじえながら、指先で外陰部の濡れ具合を、小陰唇の開き加減を、敏感に感じ取っていく。
小陰唇がはっきりと左右に開き、腟口にあたる腟前庭の粘膜が指先の腹で容易に触れることができるようになれば、指を腟内に移動し、腟粘膜を愛撫することに、女性は何ら抵抗を感じないはずである。さらにもっと愉しみたければ、クンニリングスに移行するのもいいだろう。
こうしたオーラル・セックスの流れで既に、相互の興奮状態は高いところにあり、オーガズム一歩手前に差し掛かっているだろうから、あとは結合するのみである。
【講義のポイント】
- 愛撫はセックスで最も大事なプロセス
- 言葉による愛撫も大事
- 抱擁でセックスの興奮度をコントロールする
- 性器結合は外陰部が濡れたあとの最後の締めくくり