雑誌『UTAN』の性の話

2021年7月25日

 
 私が中学生だった頃(1985年頃)、科学専門月刊誌『UTAN』(学研)を定期購読していたことを思い出す。小学生時代に学研の『科学』『学習』を定期購読していた(いわゆる“学研のおばちゃん”が毎月配達に来てくれた)こともあり、小学校の卒業と同時にそれらの購読も卒業ということで、代わりに『UTAN』を購読し始めたのである。
 その頃の科学系雑誌といえば、『Newton』 とか『サイエンス』(現『日経サイエンス』)などがあった。しかし、そちらはかなり内容的に小難しく、敷居が高かった印象がある。中学生の自分には、『UTAN』だとか『ムー』がちょうどいいだろうと思っていた。ちなみに、科学系雑誌として世界的に誇る『National Geographic』(ナショナル ジオグラフィック)の日本語版が刊行されるのは、10年後の1995年のことである。

『UTAN』の思春期の性に関する記事

 そうして中学生時代に購読していた『UTAN』の、ある号に、それはもう唐突という印象が強いのだけれど、思春期の性に関する記事が掲載されていて驚いたのを憶えている。記事の中の人体モデルの図が、通常のイラストではなく、なんとコンピューター・グラフィックで描かれていたのだ。そうした図は、当時としてはとても斬新であったし、単純にに関しても好奇心旺盛だったため、私はその号を捨てずに取っておいて、後年その記事のページをスクラップ化して保管しておいたのだった。
 
 9年前、ブログ[Utaro Notes]で、小学生時代の自身の性に関するエピソードを書いたついでに、その『UTAN』のスクラップした記事を掲載した(「孤独と神話【補遺】」参照)ことがある。以下、その時のブログの文章を書き出しておく。
《1986年頃、学研の少年向け科学雑誌『UTAN』に、「ボクたちのSEXサイエンス 思春期のこころとからだ」という記事が掲載された。私が中学2年の時の月刊号で、当時のコンピュータグラフィックを駆使しながら、男女のからだの成長が図説された衝撃的な記事であり、個人的にも衝撃を受けた。もしかすると少年向け雑誌としては国内で最初の“過激な性教育”であったかもしれない》

(ブログ[Utaro Notes]「孤独と神話【補遺】」より引用)

 
 ところが9年前の時点では、ちょっとした手落ちがあり、元の雑誌は既に所有していなかったため、その記事が掲載されたのは『UTAN』のどの号だったか不明であった。最近になってようやく、その性の記事の号を見つけることができ、詳細が判明した。「ボクたちのSEXサイエンス 思春期のこころとからだ」の記事が掲載されていたのは、1986年9月号である。およそ35年前ということになる。
 メインである総力特集が、「現代軍事科学 テロとスパイとSDI」となっていて、たいへんおどろおどろしい。まさに軍事科学関連の記事が中心であったのだが、思春期の性に関する記事「ボクたちのSEXサイエンス 思春期のこころとからだ」は、雑誌のずっとうしろの方で、わずか3ページほどしかなかった。私にとっては、たいへん思い出に残る性の情報だったので、あらためてその記事3ページをここに紹介してみたい。

鮮やかな人体のコンピューター・グラフィック

 「ボクたちのSEXサイエンス 思春期のこころとからだ」の記事の監修に携わったスタッフを明記しておこう。監修は、《吉祥女子中学・高等学校教頭 “人間と性”教育研究協議会代表幹事山本直英》氏であり、CGイラストは、長谷川一光氏だ。山本氏は残念ながら2000年に亡くなられたが、1982年に“人間と性”教育研究協議会を創設している。
 この記事の視覚に訴えてくるのが、なんといってもコンピューター・グラフィックの人体モデルだろう。一つめのCGイラストが、当時としてはたいへん衝撃的で、6歳・14歳・22歳の男女の成長におけるからだの変化をグラフィック化したものであり、それを見れば、大人になるにつれて体つきが大きくなって、性毛や脇毛が生えてくる様子がよく分かる。むろん中学2年生だった私は、これを見てたいへん驚いた。
 2つめのCGイラストでは、思春期における男女のホルモンの働きを示した図となっていた。中央にある脳の下垂体副腎皮質や男子の睾丸、女子の卵巣に働きかけ、副腎皮質ホルモンテストステロンの分泌、女子においては卵巣での黄体ホルモン卵胞ホルモンの分泌をうながすことが示されており、これらの体内の働きが、身体のさまざまな箇所の成長に大きく関与していることがよく分かる。
 
 こうした図表を見ても分かるとおり、通常のイラストよりもCGイラストの人体モデルは、その生々しさが軽減され、視覚的に抽象化される傾向があるという利点がある。今では、CGイラストは当たり前のように使用されているが、当時はまだ手描きのイラストがほとんどであり、こうした科学系雑誌の記事で人体モデルをコンピューター・グラフィック化することで、単純に関心の度合いを高め、性に関する知識にも自然に興味が湧いたであろうと推測される。
 「ボクたちのSEXサイエンス 思春期のこころとからだ」の記事の内容は、タイトルにもあるように、思春期の心とからだの変化がテーマであり、前述のCGイラストで内容を視覚的に補完していたわけで、これらはQ&A方式で、「異性を好きになるわけは…?」「第2次性徴ってどんなこと?」「性器についてくわしく知りたいんだけど…」の3つの質問に答える形となっていた。
 雑誌『UTAN』小学生から高校生くらいの若者をターゲットにした科学系雑誌であったとするならば、こうした思春期の性に関する情報をピックアップして掲載したことは、おおむね的を射た内容であったと思う。ただ、科学の情報雑誌として客観的に考えれば、『UTAN』は、その守備範囲を軍事関連や動植物・自然現象・歴史関連に偏らせ、人体や生物に関する情報は比較的薄かったように記憶している。

「SEXサイエンス」の単行本が出ていた?

 「ボクたちのSEXサイエンス 思春期のこころとからだ」の記事は、若者向けとしてかなり冒険的で刺激的な内容であったのかも知れない。おそらくこうした内容の単行本が、学研から出版されていたのだろう。実は3ページ目の次のページはその本の広告となっており、A5判変形定価580円、タイトルは『ボクたちのSEXサイエンスノート』(学研)である。小見出しを見ると、《間違いだらけの性知識》とか《キミの悩み疑問にいますぐ答える…》とか、《ぐんぐんみるまにたちまちSEXがわかる本》などとあって、興味深い。つまり、「ボクたちのSEXサイエンス 思春期のこころとからだ」の記事はこの本のタイアップ記事だったのだ。
 現在のセクシュアリティ教育では、「異性を好き」になる人も「同性を好きになる」人も、また「男も女も好きにならない」人も少数いて、多様であることを教える。また、イラストの中に、「包茎のいろいろ」というのがあるが、現在のセクシュアリティ教育では、真性包茎以外は仮性であっても正常なペニスであると教える。仮性包茎は全く治療の必要がないからである。そういったように性教育も時代に応じてアップデートされている点は踏まえておかなければならないが、中学生時代にこの記事を読むことができた私は、学校で細かく教えてくれなかった性の知識の一助となっていたことは、どうやら確かなようである。

〈了〉

学研の科学系雑誌『UTAN』1986年9月号

「ボクたちのSEXサイエンス 思春期のこころとからだ」

当時のコンピューター・グラフィックで示した「ホルモンの働き」

「男の性器」と「女の性器」

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