の話。
寝た子を起こせ。これは一生に関わる大事なことなんだから。

生理用品無償化のことから

2021年12月5日

 
 私が男性であるからなのか、これまでたびたびメディアで取り上げられてきた“生理用品無償化”のトピックは、正直、関心の度合いが低かった。「生理用品が買えずに困っている人たちがいる」「社会的に支援策が必要だ」といった話は、あちらこちらのメディアから、目や耳を通じて自分自身にインプットされてきたにもかかわらず、その本質的な問題の大きさや深刻さに気づくことがなかったのだ。あるいは、まだ気づいていないのかも知れない――。
 
 一般の男性は、女性の生理(月経周期における身体的なケア)の実情にきわめて疎い。女性の生理について知る必要はない、訊くのもはばかる、タブーだ――という思い込みがある。
 少なくとも昭和50年代に小学生だった世代の男性(男子)は、女子の初経(初潮)にともなう月経教育(講習)というものをほとんど受けていない。
 ちなみに初経は、だいたい10歳頃に経験する人が少数ながらいて、小学6年生でほぼ7割の女子が経験する。月経時の生理用品の扱い方などを習う月経教育(講習)に関しては、男子児童は「知る必要なし」という学校側の方針もあって、男子がナプキンやタンポンを直接見ることも触る機会すらも無かった。女子の月経講習の際、男子は別の教室に分けられて、精通に関する授業を受ける、という取り決めだった。
 こうした旧来の、男女の互いの性を秘匿にした性教育は、異性の性はむしろ「タブーなのだ」と思い違いさせてしまう恐れがあり、互いの性の仕組みやその矜恃を受容する気持ちが薄れてしまう。男子は女子の生理(初経)には関心を持つな――「生理の話はタブー」――という観念が生じるきっかけとなってしまったのは否めない事実である。

学校でナプキンを配り始めた若者たち

 2021年11月14日付朝日新聞朝刊の一面。見出しは「配る生理用品 尊厳守るため」「無償化したスコットランド」
 スコットランド・グラスゴーのセントポールズRC高校(11歳から18歳が通う公立中等学校)では、女子生徒が自らトイレにナプキンを補充する取り組みを、4年前から始めたという。経済的な理由などで生理用品が手に入れられない生徒のために、トイレに生理用品を置くようになったのだ。これがきっかけとなって事業化が決まり、翌年以降、市内の全校で生理用品の配布が始まった。
 スコットランドでは2020年11月、必要とする誰もが生理用品を公平に入手できる法案が、議会で可決した。自治体にこの取り組みを義務づけ、世界初の「生理用品無償化」が実現した。法案可決の後押しとなったのは、2018年の調査結果である。なんと女子生徒・学生の26%生理用品の確保に困難を経験し、そのうちの43%が買う余裕がなかったのだという。
 こうして各自治体と提携企業が連携し、学校その他の施設(例えば図書館や美術館)などのトイレに生理用品が置かれるようになった。年間予算は870万ポンド(約13億3千万円)。これまで公の場で語られることのなかった女性の生理の問題が、政策として語られ、その偏見が弱まってきているといった、地元地方議員のアリソン・エビソン氏のコメントもあった。「生理の貧困」(Period Poverty)と呼ばれているこの問題は、最近では「生理の尊厳」「生理の公平」と言われることが多くなったという。

貧困がもたらすセクシュアリティへの影響

 格差社会における貧困問題の顕在化は、性にかかわる現代的な課題に対して、どのような悪影響を及ぼすのだろうか。
 端的にその具体例が、まさに「生理の貧困」という社会問題となって現れてきていることに、我々は早く気づかなければならない。これまで盲点だったのは、個人の性にかかわる現代的な課題として挙げられる「妊娠・出産・中絶」「性感染症」「性情報の進展」「性的マイノリティ」への正しい理解や矜恃が、貧困という状況に陥った時、いくら誠意あれども個々で不完全さをもたらしかねないということである。
 
 例えば「性感染症」で言うと、コンドームがあれば性感染症はふせぐことができる、といった正しい知識は持っていても、いざ経済的な理由でコンドームが買えなかったことが、結果的に仇となって性感染症になり、診療さえ費用の工面がままならない状況に陥るとか、「妊娠・出産・中絶」にかかる費用が捻出できずに放置してしまった悲劇――といった状況も、今やごく少数の人の問題とは言えなくなってきているのではないか。「基本的人権」「生命の尊厳」、個人や家族の「健康と幸福」のために欠かすことのできない性にかかわる現代的な課題への誠実な希求が、貧困によって脅かされないためには、社会的にあらゆる健康サービスの人道的支援が必要ではないだろうか。

生理についてもっと語りかけて

 世界的に格差社会の悪影響は、より深刻さを増してきている。日本も例外ではない。貧困層の増加によって、生理用品が買えない――といった、まさしく「生理の尊厳」にかかわる問題が浮上してきているのだから。 

2021年11月14日付朝日新聞朝刊「配る生理用品 尊厳守るため」

格差社会における貧困問題の顕在化

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  前述したように、かつて日本の公教育の現場では、 男女の性を二分化して教え、 性差があることをなかば取り違えて分断化し、 互いの性に関する知識や課題点をガラス張りにしてこなかった側面がある。そうした長らく 教育上の不始末さによって、結果的には、 社会全体が女性の生理の話をタブーにしているのだ。

 イギリス発祥のチャリティー団体である日本の「レッドボックスジャパン」(2019年12月設立)は、学校に無料で生理用品を提供し、生理中の若者を支援している。こうしたチャリティーによる取り組みそのものが、もっと広く知れ渡ることを期待して已まない。
 むろんスコットランドのように、公共施設では当たり前のようにして生理用品が無償配布されるような行政の努力があれば、尚望ましい。各自治体は地域社会の健全、すなわち「健康と幸福」の補助のために、いま必要な施策を惜しまず推進すべきではないだろうか。
 まだまだ日本人の多くの人々が、「生理の貧困」→“生理用品無償化”といった世界的潮流とその本質的な問題に疎い――と言わざるを得ない。世界中の10代の若者たちが今、率先してこの問題を解決しようと働きかけている。願いを具象化するべく、立ち上がってさらなる人道的支援が必要である。

〈了〉