男子高校生のための
コンドーム会議
仲間と一緒に「コンドーム会議」を開き
コンドームの装着法をマスターしよう!
コンドームは避妊の王様?
コンドームよ、ありがとう。コンドームは避妊の王様。ならばクイーンは、女性が飲む経口避妊薬の「低用量ピル」だ。この2つを正しく併用すれば、避妊の成功率はほぼ100%に近い。
日本の避妊王は「コンドーム」
避妊の方法としてまず思いつくのは、「コンドーム」だ。セックスを開始する前にペニスにかぶせ、射精しても膣内に精子が放出されるのを防ぐ(=卵子と出会わない)避妊具である。正しい使い方をすれば、妊娠率を10%以下に抑えることができる。
ちなみに、精子と卵子が出会わないようにするための避妊の方法は他にもある。子宮口に挿入して精子の進入を防ぐ「ペッサリー」や「殺精子剤」、「卵管結紮(けっさつ)法」などがあるが、若者がおこなえる避妊法としては向かない――と言い切ってしまっても構わないだろう。
そのほか、受精卵が子宮へ着床するのを防ぐ「IUD」は、子宮に挿入する小さな器具だが、産婦人科の医師に挿入してもらう必要があり、出産の経験のない若者には向かない。また、「精管結紮(けっさつ)法」というのは、いわゆる男性のパイプカットのことである。先の「卵管結紮法」と同様、これらは永久に避妊(永久に生殖をおこなわない)するための手術であり、これも、生殖活動に前途ある若者に向かないことは、言うまでもない。
そうなると、コンドーム・イズ・ベスト! と思えてきてしまう。悪い言い方をすれば、避妊の方法は「コンドームをペニスに装着すること」以外知らなくていいとなるし、実際、若者達は、「コンドーム」以外の避妊の方法をほとんどよく知らない調査結果もある。
確かに、“ヒニン=コンドーム”という通念、あるいはこの一般常識は、子どものうちから何らかの形で教えられ、周知されてきたはずである。「コンドーム」は、コンビニやドラッグストアなどで、比較的安価で販売されており、若い学生でも買える利点がある。付け加えておくと、「医療機器製造販売承認番号」がパッケージに表示されていないものは、本物のコンドームではない(男性向け避妊用コンドームとしては相応しくない)ので、絶対に買わないこと。安心・安全を担保するのであれば、国内のメーカーの「コンドーム」を買うのがいいだろう。
経口避妊薬「ピル」は避妊のクイーン
とにかく日本は、避妊に関して、大雑把に言うと、“コンドーム一辺倒主義”で突っ走ってきたため、女性が飲む経口避妊薬の「ピル」というクイーンの称号の存在を、すっかり忘れていた。現にいま、「ピル」を利用して避妊する若者は、なんと1割にも満たない。それもそのはず、日本では、1999年にようやく低用量の「ピル」が認可されたからである。
「ピル」とは何か――。たいへん昔の話かつクダラナイ話で恐縮だが、私が子どもだった頃、「ピル」と聞いて、“ピルピルミチル!”と騒ぎ立てた思い出がとても懐かしい。若い人には分からないだろうから説明するが、決して、メーテルリンクの話ではない。その頃、“チルチルミチル”という使い捨てライターの商品があったのである。避妊薬の「ピル」という新鮮な言葉の響きと、その頃日用品としてあったライターの“チルチルミチル”を掛け合わせた言葉あそび=ジョーク、ということになる。
話を戻す。経口避妊薬――つまり飲んで避妊する薬剤のこと。低用量の「ピル」は、血液中の女性ホルモン(黄体ホルモンのプロゲステロンと卵胞ホルモンのエストロゲン)量が増えて周期的な排卵を止める効果があり、99.9%妊娠を防ぐことができる。飲み忘れさえなければ、最も失敗率が低く、効果的な避妊法なのである。
にもかかわらず、日本の場合、産婦人科の医師の処方が必要なことからか、若者には敬遠されているようで、認知度も低い。しかし、「ピル」は、月経不順を治したり、月経痛を和らげる効果もあるので、若い女性はぜひ知っておくべきだ。欧米ではむしろ、「コンドーム」よりも「ピル」の方がポピュラーなのである。何度も言うように、避妊は「コンドーム」と「ピル」の併用が望ましいのだ。
「膣外射精」で避妊はできない
若者の避妊の実態例として、こういうことも知っておいてほしい。
高校生や大学生がセックスの時に実践している避妊の方法のうち、「膣外射精(膣からペニスを外に出して射精する)」を選択している高校生は約3割、大学生では2割弱もいる。
おおむね、若者達の「膣外射精」のやり方としては、オルガスムに達する直前に膣からペニスを引き出し、女性の下腹部の上で射精するというもの。実はこのやり方は失敗率が非常に高く、「コンドーム」無しで膣内に挿入していたペニスには、既に精子が付着している場合があり、卵子と出会ってしまう可能性がある。
この場合のお粗末なセックスでは、こういう笑えない例がある――。膣からペニスを引き出してから相手の下腹部で射精(=「膣外射精」)したものの、思いあまって(というか、つい興奮して?)そのペニスをもう一度膣に挿入してしまった――という失敗談。
尤も、それ以前の初歩的なミステイクとしては、男性側のオルガスムのコントロールがうまくいかずに、ペニスを出す前に膣内で射精してしまう事例が多く、いずれにしても「コンドーム」無しの「膣外射精」は、避妊の方法としては不備だらけで目も当てられず、効果はまったく期待できない。
何と言っても、「膣外射精」のまずい点を述べると、射精前に分泌される透明な液体(尿道球腺液という。いわゆるカウパー液)には、微量の精子が含まれていることがある。つまり、言わずもがな、「コンドーム」を用いずに「膣外射精」だけで避妊をしようなどと考えるのは、やめた方がいい。
ちなみに、中絶経験のある女性を対象にしたアンケート結果(2007~2008年におこなった厚生労働科学研究の調査)によると、「望まない妊娠」に至った原因として、避妊の失敗が根底にあり、それも「コンドーム」着用での失敗(破れたり漏れたりなど)と「膣外射精」が約半数を占めている。では、もう半分の失敗の原因は何か? むろん、「避妊なし」である。
これも基本的な知識としてよく覚えておいてほしい。セックスで避妊に失敗した場合は、72時間以内であれば、婦人科・産婦人科で「緊急避妊ピル」を処方してもらえる。
「緊急避妊ピル」の処方は、「望まない妊娠」を回避するための、避妊の方法としての緊急的な手段になりうる。ただし、あくまでこの場合の費用は、決して安くはない。したがって、くどいようだが、本当に何度も言う。避妊の方法としては、「コンドーム」と「ピル」の併用が望ましいのである。
若者は性の知識やセックスに関心がない?
若者は、遅かれ早かれ、恋愛を経験し、セックスを経験する。日本性教育協会がおこなったアンケート(「青少年の性行動 わが国の中学生・高校生・大学生に関する第8回調査報告」2018年8月)では、中学生・高校生・大学生を対象としたこういう統計結果もある。
「あなたがいま、性について知りたいことは何ですか」という質問に対し、選択肢形式で若者達が回答している。「恋愛」を選んだ人は、中学生・高校生・大学生で約2割いる。「男女の心の違い」や「セックス(性交)」、「性感染症」を選択した人は、おおむね1割以上。しかしながら、「避妊の方法」を選んだ人は極端に少なくて、大学生の女子ではかろうじて1割を超えているが、それ以外の人は、「避妊の方法」に関心がなく、1割にも満たない。
ところが、もっと驚くべきことに、大学生の女子を除き、約半数以上の若者が、性について「特に知りたいことはない」を選んでいるのである。中学生と高校生の男子が6割近くも「特に知りたいことはない」を選択しており、このことから、日本の10代から20代の若者は、全般的に性への関心度が低いか、もしくは、もう自分は充分に性の知識があると思い込んでいるかの、いずれかであるようだが、前ページのセックスの実態を表した統計を見れば明らかであるように、持っている性の知識は薄いものでへなちょこで、避妊の知識はおろか、セックスに対する正しい知識も好奇心も、あまりないのである。
そんなアバウトな危うい状態の若者が、いざパートナーと出会い、セックスに挑むとなった時、果たして本当に正しく避妊がおこなえるのだろうか。あるいは性感染症を防ぐことができるだろうか。正しい避妊の知識がないことで、実践が伴わず、結果的に「望まない妊娠」に陥るケースが後を絶たないのだ。
また、性感染症やセクハラ、レイプ(強姦)などの10代の若者の性被害の増加傾向も、それを如実に示している。公教育の現場で、避妊についてしっかりと学ぶ機会が少ないからなのか、あるいは教師の教え方が大雑把なせいなのか、諸外国と比較しても日本の子どもや大人は、セックスと避妊のリテラシーが低いのである。
男子高校生に実践してもらいたい「コンドーム会議」
こうしたことから、私は一つのことを思いついたのである。男子高校生のための「コンドーム会議」。このことを提案し、広く、実践できる男子高校生が増えていけばいい。
男子高校生には、正しい「コンドーム」の装着法を学んでもらいたいのである。単にそれを頭で理解するのではなく、実際に試してみることが肝心。自分でコンドームを買い、そのコンドームを自分のペニスにかぶせてみること。この2点はとても重要であり、遅かれ早かれセックスを経験する前に、ぜひとも習得しておいてほしいと思うし、事前に(少なくとも高校生のうちに)「コンドーム」の装着法を体験しておくことは、損にはならないだろう。
高校生ではなかなか、一人で「コンドーム」を買ったり、ペニスに装着したりするのは面倒だし、恥ずかしいし、難しい、と思うかも知れない。そこで、そういったことをグループで実践すればいいのだ。それが、私の提案する、男子高校生のための「コンドーム会議」なのである。
まとめ
・避妊は「コンドーム」と経口避妊薬「ピル」の併用が望ましい
・「膣外射精」は避妊の効果が期待できない
・無知であるままのセックスは、自分達の心とからだを傷つける
・男子高校生は「コンドーム」の装着法を実際的にマスターすべき