奈良林祥先生のセックス講義
セックスとオーガズム
愛あるセックスのための正しい知識を学ぼう
性とはなにか―性の基礎知識
3.女の性
男の性と女の性のちがい
男の性というのは、もちろん人格と人格の問題として異性や好きな人を愛することもでき、精神的に愛を注ぐこともできる。しかしそれと同時に、「精子の生産過剰」という全くの生理的状況だけでも、異性や好きな人を熱烈に愛することができてしまう。これが男の性の最たる特徴である。
しかも困ったことに、男は、その異性や好きな人を愛していることが、単なる「精子の生産過剰」の結果に過ぎないのか、人格の問題としての愛なのか、区別がつかないことが多い。区別できるとするならば、生産過剰の精子が体外へ排泄された後、果たして人格の問題としてその異性や好きな人を愛している気持ちがあるかどうかである。
このようなことで男は、生産過剰になった精子の排泄といった生理的な欲求が伴うため、「一度に何人もの異性や好きな人を同時に愛する」ことができてしまう。生来、男は浮気っぽいというのは、このことが原因なのだ。
女性、つまり女の性には、男における「精子の生産過剰」のような生理現象がない。したがって、異性や好きな人を愛するといった場合、もう既に「心の問題や人格の問題として愛する」、というふうになる。そのため、男性に好きだ、愛していると言われると、同じように人格の問題としてそう言っているとつい思い込んでしまうのだが、先述したように男の性は、人格の問題以外にも「精子の生産過剰」という生理現象からくる性欲で、ついそういう言葉を発することがあるということを、女性は知っておくべきである。
女性は初めての月経すなわち初経が来ると、それをもって性にめざめた、思春期に到達したと言われるが、厳密に言えばそれは正しくない。月経が始まったということは、「卵巣からの排卵が始まった」ということであり、生殖能力の開始を示しているに過ぎず、女性が本当の意味で性にめざめるのは、平均して初経があってから4、5年経った頃からだという。これは男性ホルモンの絶対量が少ないことが起因しており、射精と同時に性にめざめる男性とは、ここが大きく違うのだ。
男性ホルモンは、性を意識させる重要な誘因の一つである。その分量が、男に比べて女性はずっと少ない。このことは、女の性を生涯にわたって何かと特徴づけている。女性の性的興奮は、周囲の影響に極端に左右されやすい特徴がある。これも男性ホルモンの絶対量の少なさのせいである。女の性は男の性と比べ、心理的色彩が強い。言い換えると、女性の性反応は、様々に変わる可能性を持っているということである。
男の性は、性を与えるのが役目であり、その機能及び感覚の面の基礎は、性にめざめた瞬間から既に、共通のものとして具わってしまう。男と女の性反応のちがいを以下、列挙してみた。
男の性反応の特徴
○体内に精子の生産過剰が起こる、又は心理的に性的興奮を覚える
○性器が勃起する
○興奮が高まり、射精が起こる
○射精に伴い、強烈な性的快感を味わう
○射精した後は、性的興奮は速やかに消失する
男の性反応の仕方は、誰でも同じである。射精はあっても快感がないとか、快感の後に射精が後から起こるというような個人差のようなものはない。昨日は射精に快感が伴ったけれど、今日の射精には快感がなかったという差もまったくない。
女の性反応の特徴
○心理的な支配を受けやすい
○相手に不満を抱いたり、環境に不安を感じると性反応はゼロ
結婚して子どもを持ち、30年40年経った夫婦であっても、性的快感を一度も知らずにいる女性も少なくない。女の性反応は振幅の大きい、可能性の底知れぬものということができ、性的快感の経験も度合いも人それぞれ違う。自慰をすることで、性的快感を知ることが望ましい。
女性の腟(ちつ)について
女性が性を直接行為する場所は、腟である。腟は、普段は隙間らしい隙間もないほど左右の腟壁がぴったりと触れ合った状態にあり、男性の勃起した性器が挿入されると、その大きさに応じてどのようにも拡がり、それを受け入れるだけの弾力性を持っている。
しかし、不思議なことに、この腟という場所は、性を交える主役とは思えないほど鈍感で、解剖学的に見ても、知覚神経の分布が極端に乏しいことが分かっている。性の交わりという華麗なる営みをおこなう場所にしてこの鈍感さ、この点においても、女性は心で性を味わい、心で性の快感を愉しむという特徴がよく示されている。
腟そのものは鈍感であっても、外陰部の方は非常に敏感である。アメリカのキンゼイの報告(*)による、女性器の反応の強さを触覚に対して示した割合の表を参考にして欲しい。これを見ると、子宮腟部はほとんど反応がなく、陰核(クリトリス)が最も鋭敏に反応することが分かる。
このことから女性は、男性からの性を外陰部への刺激という形で受け、性的興奮を高めたのち、性器の結合による心理的充足感を加えることによって、初めて性的快感なるものを味わえるしくみとなっている。男の性反応はきわめて単純でストレートであるが、女性の性反応はいつも二段構え、三段構えの複雑さを持ったもの、ということが言える。
*キンゼイ報告とは
アメリカの男女の性生活についてのレポート(“Kinsey Report”)。インディアナ大学動物学教授アルフレッド・C・キンゼイ博士が、1,200人に及ぶ男女の面接資料にもとづいて、1950年に『人間における男性の性行為』、続いて『女性の性行為』を出版、話題を呼んだ。これによって婚前性体験、男女のオナニー(自慰)などが予想外に多いことが明らかになった。例えばオナニーについて、「成人男子の93%、成人女子の62%はオナニー経験者で、そのほとんどがオーガズムを経験している」と、報告している。