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マスターベーションを正しく理解する

 

2019年4月28日

 マスターベーションの“好みのレシピ”というものがあるとすれば、自分のからだや、あるいはパートナーのからだに間接的に害を及ぼすような“相応しくないレシピ”を選択したくない。“相応しくないレシピ”とは? “好みのレシピ”が不適切なものでないという確固たる自信が果たしてあるのか? そもそもマスターベーションを何故みんなやる? これまで日常生活であまりに軽んじられてきたマスターベーションについて、真剣に考察し、「マスターベーションとは何か」を正しく理解することに努めたい。
 

マスターベーションについて誰も無知であった

 当サイトの「動画『教えて!性の神さま』―ブレイクスルーの性教育プロジェクト」の稿で触れた『教えて!性の神さま』の動画には、男子のマスターベーション(自慰、オナニー)に関するギモン動画があった。「テクノブレイクって本当?」と「マスターベーションで強い刺激がないとイケない」の2つだ。
 10代の男子のマスターベーションに関する悩みや疑問はけっこう多く、「テクノブレイク」のような都市伝説のたぐいの間違った知識、誤解や偏見などは昔から少なからずあった。しかし昨今では、その間違った情報がSNSを通じてえらく飛び交わされたりするので、例えばそれが不適切だとは知らずに、床オナなどの強い刺激によるオナニーを続けてしまうということがある。床オナの行為は将来、「性機能障害」(射精障害や勃起不全)になる可能性があるのだ(←「①不適切なオナニーが健全な勃起と射精を阻害する?」参照)。
 
 多くの人はこれまで、マスターベーション(オナニー、自慰)を軽んじ、無知であり過ぎた。笑いの種にされることもしばしばある。マスターベーションそのものを否定する人(自慰は頭が悪くなる、害悪だなどと信じていた人達)は昔と比べて、今はほとんどいないだろう。しかし、実は問題はその中身(マスターベーションの適切な仕方やマナー)なのであって、それが問われる機会がこれまであまりにもなかったのだ。学校でも家庭でも、「射精」は教えるが、マスターベーションについて突っ込んだ話がなされてこなかった。だから皆、それをほとんど独学でやっていた、ということになる。独学というとまだ聞こえはいいが、実際のところ、独善的におこなわれていたのである。つまり、ダメダメな“相応しくないレシピ”によるマスターベーションも、もしかすると知らず知らずにやっていた、ということが、ここでは問題なのだ。
 

不適切なマスターベーションをやめ、ゆるい刺激の快感に戻す

 自分の“好みのレシピ”は、本当にからだに害はないのか? もし間違ったマスターベーションというものがあるのだとすれば、それは回避しなければならないだろう。
 例えば、清潔ではない手で「手淫」をおこなうのは避けるべきであろう。肛門をいじった指で性器を触るのは、是が非か。また、冬の乾燥した肌の掌でペニスを握ると、ペニスの包皮や亀頭を傷つけることがある。そういう場合はコンドームを付けたり、TENGAを用いた方が無難ではないのか、など、あらためて考えてみる必要がありそうだ。
 
 心理的にも身体的にも、“強い刺激ありき”で性欲を増幅させつつ、最終局面で大量の精液を放出させようではないかと企てる、ごく平凡な男性のマスターベーションが、その内実、セックス時において「射精不全」に陥りかねない逆効果をはらんでいるということは、これまで述べてきたとおりだ。特に若者は、ネット情報のデマに惑わされることが少なくない今、マスターベーションにおいてさらなる「絶頂の快感」を(お金を払ってでも)つい求めたがってしまう。最高にエロいアダルト動画を鑑賞し、最高潮に勃起したペニスからとてつもない量の精液を放ちたいというメガトン級の妄想――。アメリカ人の男性は、だから皆ペニスがでかいのだといった幻想――。これは男性特有の、避けられない欲望(性欲)の姿ととらえるべきなのだろうか。
 しかし、いずれにせよ、根本的に考え直す時が来たようだ。小学生のうちに家庭や学校でマスターベーションの“ふるまい”を肯定する。それはいい。だが、それだけでは足りない。そのうえで、正しい知識(衛生、守るべきマナー、ダメなやり方など)を教え、健全な勃起と射精を促す指導をおこなうべきである。この「男子のオナニー改革論」では、一知半解な知識で収まりがちなところを、さらにぐっと広く考察していきたいと思う。
 

ある若者の性教育の実体験

 最近私は、ある20歳の男子学生一人に、学校の性教育について訊ねる機会があった。彼の話が、実に的を射たものでたいへん参考になったのである。それは、「小学校でどんな性教育の授業があった?」という趣旨の私の質問に対する返答なのだが、ここに載せることの本人の許可を得ているので、その返答の全文を以下、掲載することにする。
 
Q.小学校の時、保健や家庭科などで、性教育にかかわる学習があった?(例えば、男女のからだの違いとか、生理とか精通とか)
 
《小学校では、男子は白い液が出るようになるとか、女子は胸が膨らむようになるようになるがそれは成長だから気にするな、という内容だったと思います。中学校では性器の図や子宮の図など、名称を覚えるものが多かったかと思います。(うろ覚えで申し訳ありません)
 高校では、性病(AIDSやクラミジアなど)や、性行為の時の注意点(ピルを飲んで絶対に避妊はできない、コンドームが破れてないか、毛に絡まってないかを気をつける等)といった内容を学んだかと思います。高校生にもなると、やはり性行為の際に絡む内容についてより深く、DVDも使って勉強したかと思います。個人的には高校生というステップだからこそ、このような教育を施したと思いますが、もう一段階性教育を早くしても良いのではないかと思います。つまり小学生で性器の名称など、中学校で自分が高校で学んだことを勉強しても良いのではないかと思いますが、やはり中学校のカリキュラム的に進行的にも内容的にも色々と厳しいものがあるのでしょうか。自分には分かりませんが、中学での性教育の内容の思い出があまり無いのが、勿体ないと思います》
 
 ちなみに彼が、初めてマスターベーションをしたのは、小学生の時だったという。
 学校での性教育の実態として読み取っていくと、彼が経験した小学校・中学校の現場では、まさに思春期の子ども達に過不足ないと思われるほどの性教育がなされていたかどうかについて、その彼の記憶の度合いから察するに、もしかするとあまり充分ではなかったかのようにも推測できる。仮にそれが充分でなかったとして、時々刻々と身の上に起こるであろう心とからだの変化に、教育がうまく照応できていなかったのだすれば、ここにこそ問題がある。彼も言っているように、もう一段早く、ということなのだ。
 
 小学校で習う「月経」「射精」については、生殖器官の成長と発達の過程でほぼ最初に自己が体験する不安と動揺であったことを、大人達は既に遠い過去の出来事として忘れてしまっているかも知れない。が、しっかりと思い出して欲しい。それは誰のからだにも起こること。起こる時期には個人差があること。そして何より、決して恥ずかしいことではないということ。
 「月経」「射精」も、それはこころとからだが徐々に大人になっていくことの証で、とても素晴らしいことなのだということを、子ども達に心から伝えて欲しい。やがて愛する男女が出逢い、「性交」という行為によって精子と卵子が結合し、受胎。子を出産する――という切実な愛のプロセスの準備段階が始まったことを、思春期の身の上に起こるであろうことの先に知っておかなければ、性教育の意味はない。小学生の男子にとって、初めての「射精」(精通)の経験は、身の上に起こるとても不思議なこと、美しいこと、気持ちのいいこと。だから決して怖いことではないのだと、その不安と動揺をぜひ取り除いてもらいたいのだ。

学校で「自慰」がタブーであることの大きな問題

 子どもが思春期すなわち第二次性徴(Secondary Sexual Characteristic)に差し掛かる頃、男子は、生涯で初めての「射精」(精通)を経験する。眠っているあいだに「射精」してしまう子もいれば、ペニスを自分でいじっているうちに尿道から白い液が飛び出て、びっくりする子もいる。だが、どちらが最初であっても、男子は、ペニスをいじると気持ちがいいということを、からだで覚えるようになる。その絶頂の瞬間に白い液が出て「射精」するということを知ると、それを毎日のように繰り返してみたくなる。
 小学生のうちは、まだペニス自体が小さいので、指先でペニスをいじる、揉む、といった反復運動になる。特に包皮で包まれた亀頭のあたりは敏感なので、いじると気持ちがいい。中学生くらいになると、勃起したペニスはそれなりに大きく太くなるので、包皮が根本に下がった状態となり、亀頭がほとんど露出するようになる(萎えるとまた包皮が被る)。それまでのいじる、揉む、に加え、いわゆる“シコる”と男子のあいだで呼んでいる、「掌のグリップの反復運動」が、この頃からのマスターベーションの基本形となっていく。
 
 言わずもがな、学校ではこうしたマスターベーションについては何も教えないし、言葉として触れない。教えているのは、「射精」が起こる、ということだけ。近年、小学校では、おおむね4年生になると、保健の授業で思春期のからだの変化について教わることになる。いわゆる、女子の「初経」及び男子の「精通」理解教育である。
 小学校で扱われていた教科書を見てみよう。平成26年2月発行の東京書籍『新しいほけん 3・4』では、4年生で学習する「2 育ちゆくからだとわたし」の第3節「思春期にあらわれる変化 2」で、「初経」「精通」について学ぶ。
 
《思春期になると、女子はだいたい月に1回くらい、血液などがちつからからだの外に出されます。これを月経といい、初めての月経を初経といいます。月経のことを、生理ということもあります。
 男子は、ねむっているときなどに、精液がいんけいからからだの外に出されることがあります。これを射精といい、初めての射精を精通といいます》

(平成26年2月発行、東京書籍『新しいほけん 3・4』より引用)

 
 その第3節「思春期にあらわれる変化 2」のページに掲載されている、「初経や精通を経験した時期」のグラフを見てみよう。女子の「初経」の経験の最も多い時期と、男子の「精通」の最も多い時期には、微妙なずれがあることが分かる(「初経」の経験で最も多いのは小6。「精通」で最も多いのは中1)。女子のからだにあらわれる変化の方が、男子のからだの変化よりも幾分早い、ということは言える。
 「精通」について訊いた統計のグラフで、中学3年生男子の204人の回答のうち、「まだない」の回答が、43人もあったという点は、逆の意味で刮目すべきかも知れない。本当のところ、彼らはもう「射精」(又は夢精)をとっくに経験しているのだ、と私は思う。考えられるのは、「射精」を過去に経験しているのに気づかなかった、あるいは「精通」の意味自体を理解していない、それ以外では、嘘をついている、ということである。
 尤も、いつの時代においても、思春期の男女に性のことを正確に聴き取ることは難しく、あまり誠実でない回答(例えば嘘)が混じっていることが多いので、この手の統計の信憑性については、あくまで大筋の参考程度と思っておいた方がいい。
 

子ども達のからだの変化とマスターベーションとの関係

 思春期の頃の個人的な経験や友人から昔聞いた話を述べると、性毛の発毛は早い人で小学4年生の終わりくらいで、私の場合、5年生くらいだった。
 東京都教育委員会が作成した今年度(令和元年度)の「性教育の手引」では、第5学年の男女を対象とした、「宿泊的行事前の保健指導」という指導事例が盛り込まれており、からだの変化や仕組みを理解し、成長には個人差があること、宿泊活動の入浴時に友達のからだと比較して不安になったり変化を指摘しないようにする旨の指導がある。非常に丁寧な指導事例で思わず感心してしまったのだけれど、私が小学5年生だった時、宿泊学習前の説明会でこうした思春期のからだの変化を鑑みた、それを気にしないように子どもに指導する云々は、なかったように思う。
 
 私が自分の声変わりに気づいたのは、性毛の発毛のもう少し後で、6年生くらいだった。声変わりで遅い人だと、実際に中学3年生で変わり始めた友達がいたので、これの個人差は大きいと思った。からだの変化の早い遅いというのは、成長の善し悪しとはなんの関係もないことは言うまでもない。
 男子のマスターベーションの頻度や、そのやり方云々は、これら学校の教室や宿泊先での入浴時で、人それぞれのからだの違いのように視覚的に判明するものではない。何故ならそれは、からだの変化ではなく、あくまで人それぞれの秘密事としての性行為だからだ。したがって、この頃すなわち宿泊学習のある小学5年生の段階で、経験し始めているであろう自分や友達のマスターベーションが適切か不適切かどうかなど、腹を割って話さない限り、まったく知る由もないのである。
 
 くどいようだが、あらためてここで、「射精」について簡単に復習しておこう。生殖器に起こる変化は、脳から「性腺刺激ホルモン」が分泌し、生殖器から女性ホルモン男性ホルモンが分泌されることによる。男子の場合、精巣でつくられた精子が、性器への刺激によって前立腺からの粘液と混じって精液となり放出されること、その現象が、「射精」であり、初めての「射精」「精通」という。この現象を初めて経験する時期は、性毛が生えてくる前か後か、声変わりの前か後かは人それぞれであって、個人差がある。なかには、友達にそれを教わって初めて試した、という子もいるだろう。「月経」の現象と大きく異なるのは、「射精」「夢精」(遺精)によって引き起こされる場合と、マスターベーションによって「射精」する場合とがあり、当然ながら後者は、自己認識のうえでの性行為である。日本のどの教科書でも後者を述べることはタブーとされ、前者の夢精論で片付けてほとんど素通り、ということになっている。
 
 マスターベーションについては教科書では基本的には触れられないが、一部の中学の保健の教科書(東京書籍の『新しい保健体育』)では、「射精」について、《心身の性的な興奮や刺激によって精液が尿道を通り》という文言が盛り込まれていて、例えば「性交」「自慰」という言葉を教科書では扱ってはいけないことの苦肉の代用として、遠回しな言葉で《心身の性的な興奮や刺激によって》と、その性行為の含みを持たせている。いずれにしてもマスターベーションに関する言及は、教科書の中ではおこなえず、それぞれ個別の学校指導の裁量で、口頭もしくは何らかの教材によって、子ども達に語られているものと推測する(もしまったく語られなかったとすれば、大変なことになる)。
 
 かつての小学生達は、やって良いのか悪いのか判然としないまま、秘密事としてそれをやっていた。やっていいよなんて聞いたことがなかったけれど、気持ちがいいから、やっていた。友達もやっているだろうなと密かに思っていた。でも大人は絶対にやらないと思っていた。
 テスト前にやっているのは自分だけと思っていた。いじるのはふしだらだ。汚いことだ。友達にはやったことがないと嘘をついていた。本当は大きくするために必死になってやっていた。溜まってきちゃったらまずいから、やっていた。やりすぎると出なくなっちゃうと不安にもなった。もう二度とやらないと決めたその日の夜に、やっていた。大人になって、セックスの前にもやっていた。
 

〈了〉 

東京書籍『新しいほけん 3・4』(平成26年2月発行)

小学4年生で学ぶ「2 思春期にあらわれる変化 1」

思春期のからだつきの変化について

「3 思春期にあらわれる変化 2」