シンプル極まれり―アンアンのSEX特集
今年は少なからず気になった。コロナ禍(COVID-19のパンデミック)において、若者達のカジュアルなセックスはどう変わったのか、あるいはどう変わるべきなのか――。雑誌『an・an』の夏恒例となっている“SEX特集”号の誌面が非常に注目された(昨年号については当サイト「アンアンのSEX特集―新しい時代の処女喪失論」参照)。
そもそも日本の公教育では、「性交」を教えていない。コロナ禍での対策で3密が避けられる状況の中、濃厚接触となるセックスはオッケーなの? パートナーとの性生活はどう過ごすべき? 10代の若者達の素朴な疑問は溢れるばかりだが、大人たちは口ごもって語りたがらない。だが、知らない…では済まされないのだ。
例えばアメリカでは、ニューヨーク市がまとめた「コロナ禍におけるセックスの在り方」の公式見解があって、ウイルスの研究結果の進捗に伴い日々アップデートされ、たいへん参考になる(当サイト「【コロナ情報】コロナ時代のセックスはどうすればいい?」参照)。
翻って日本では、まだおおむね、「コロナ禍におけるセックスの在り方」あるいはパートナーとの性生活の新しい様式について、適切な指南書なり専門家の判断の最大公約数となる報告書が見当たらない。したがってこれに関する疑問や不安は募り、例年以上に、雑誌『an・an』の“SEX特集”に対しての、若者達の評判と関心は、発売以前から高まっていたわけである。
したがって、女性だけがこれを読んでいたのではもったいない。ぜひとも今夏の“SEX特集”号は、若い男性諸君も必読なので、書店で本を買い求め、コロナ禍における「愛とSEX」を見極めてもらいたい。
コロナ禍で初のアンアン“SEX特集”号
2020年夏、雑誌『an・an』(マガジンハウス)の“SEX特集”号(No.2212 2020.8.12-19合併号)。《愛しい人と触れ合う悦び。幸せで満たされる時間。愛とSEX》。表紙のビジュアルは、Hey! Say! JUMPの山田涼介さん。今年27歳で、仕事に対してとてもストイックなのは有名。今回の撮影もボディケアを準備万端にして挑んだようだ。
期待された誌面でも、「身を焦がす愛。」と題するフォト・ストーリー(カラー12ページ)で山田さんが主人公を演じ、その精悍なボディを惜しげもなく披露している。
最初のページにある小見出し《愛する人と身も心も一つになる幸福。いとしさで満たされる、刹那的な瞬間。》は、とても今日的な標記でもある。コロナ禍の影響で、以前のように緊密に接する機会が激減してしまったであろう恋人との日常――。その切ない気持ちを表し、大切な一つ一つの機会の、今まではほとんどスルーしてしまっていた当たり前の「幸福な感覚」を、あらためて身に沁みて味わう日々であることを促してくれている。
当たり前が当たり前ではなくなった“今日のメッセージ”として、おそらく多くの若者が、共感できるのではないか――。山田さんのしっかりとケアされたボディとその立ち振る舞いを、男子諸君は大いに参考にしつつ、女性はその美しい肖像に心をときめかせながら、今号の内省的なテーマへと移ろうではないか。
「愛とSEX」で大切な3つのこと
セックスの経験というものが、既に今の時代、若者のちょっとした自尊心を高めるための、言わば“決め込むファッション”ではなくなったことは、この十数年来からの傾向であった。具体的に述べると、「僕は(私)は童貞(処女)じゃないよ」といった性体験の自己申告的アピールとか、「女の子(男の子)と何回セックスした?」と仲間同士で訊きあって性の熟練度のようなものを競い合う――といった心理的不安から来るセックスへの過大妄想は、前時代で終わりを遂げたのだ。セックスが仲間同士で話し合われる時代は、遠い昔のこととなってしまったようだ。
しかし、その善し悪しというのもある。性について正しい知識を身につけなければ、相手を心理的または肉体的に傷つけていることに気づかないことがあるのだ。コロナ禍でいっそうセックスが忌諱されるようになったとするならば、性に関して新たな「不安な時代」が始まったことになり、親密な関係になることへの過度な心配を抱くことにもなる。
今号の「愛とSEX」の冒頭では、「この時期、セックスはどうあるべきか?」の話を著名な3人の女性に訊き、まとめ上げられた「3つの提言」が掲載されていた。ちなみに3人の女性とは、産婦人科医の宋美玄さん、文筆家の鈴木涼美さん、心理カウンセラーのクノタチホさん。その「3つの提言」は、①「幸福感」、②「身体感覚」、③主体性。
①「幸福感」について。
これまでセックスは家に持ち込まず、外で、風俗や不倫で処理するというやり方があったけれど、コロナ禍で、外の人との関わりが減り、特定のパートナーとの関係が積み上げられていく、そうした特定の人との「幸福感」への認識が広まってきたことを鈴木さんは述べている。宋さんは、幸福なセックスには信頼が大切と述べており、クノさんは、幸福な恋愛のためには、セックスを所有欲の対価に選ばず、精神的な余裕を持ち、相手が嬉しく思うことを自分の喜びと思えるメンタリティが理想、と述べる。
②「身体感覚」について。
深い快感を得たいなら、「身体感覚」を研ぎ澄まし、ワンパターン化されたセックスにとらわれることなく、自分の性的快感に素直になった方がうまくいく、と宋さんは説く。また、日本人のセックスはムードを重要視しすぎるとも。鈴木さんは、セックスの快楽には、言葉のコミュニケーション抜きにはたどり着けない、と述べる。クノさんは、セックスは自分の「身体感覚」といちばん向き合う行為。自分が求めているパートナーはこの人だという点で一致しているかどうかであり、それを確認する行為でもあると。
③「主体性」については、3人の見解を私なりにまとめておこう。これまでの日本人のセックス観というのは、男性が主体的(主体者)になって、その男性に女性が心身を委ねる形であったけれど、ここ最近、女性も主体的に、セックスを通じて「幸福感」とか「身体感覚」を愉しみたいと思う人が増えてきた。セックスについて主体的にポジティヴに考えている女性は、逆に「したくない」と思ったそのタイミングでのセックスを、黙って受け入れることなく拒否することもあるのだ。だから男性は、セックスは男がリードするもの(=古い価値観)と勝手に決めつけないで欲しい。
セックスをより愉しむためには、古い観念を捨て、新しい感覚の作法が必要だ。つまり、男性も女性も自分の身体の管理をし、女性は月経周期を意識してピルを飲んだり、男性は勃起力を保つ努力をしたり、そうしたケアに関してお互いに言葉でのコミュニケーションをはかりながら、セックスの快楽について、あれこれと練度を上げていくことが大事。セックスは性処理のためにするのではない。お互いの心身をフレキシブルに磨き上げる快楽の最適なコミュニケーションだ。もっとシンプルで、自由な感覚でセックスを愉しんで欲しい――。
日本人はオーガズムについて何も知らない?
「ananセックス白書」のアンケート記事も毎年恒例なので興味深い。ざっくりと今年の傾向を分析してみると、若者のセックス観は一言で言って、「少数精鋭」志向。
セックスが好きな人は20代、30代、40代ともほぼ半数。90年代後半くらいから徐々にセックスへの関心が薄らいできた傾向があって、その頃20歳前後だった今の30代後半から40代後半の人達の、セックスに対するある種の抵抗感は、依然として数字に表れているものの、ここ最近の20代の、セックスに対するリテラシーが以前と比べて回復してきた兆しが感じられる。これは端的に、セックスはいいものだ――とポジティヴに受け止めている人が増えてきた、ととらえたい。
また、定期的にセックスをするパートナーの数も、今は少数が当たり前となっており、6割が1人と回答。不特定多数とセックスをする、“セックス・フレンド”をたくさん持ちたい的な思考は、今や圧倒的に少数派となり、コロナ禍の影響に限ったことではなく、かつて旧時代に性志向のトレンディだった“セックス・フレンド”謳歌は、もう遠い昔話と言えそうだ。
セックスは「少数精鋭」主義。だから、セックスをする頻度もそれなりに減ってきている中、いよいよ日本人の若者達が真剣に関心あるいは悩みを抱くようになってきたのが、オーガズム(orgasm、性行為時の絶頂感)についてではないだろうか。セックスは回数ではなく、質が問題――。「ananセックス白書」のアンケートの、「1回のセックスで平均何回イクことができますか?」の統計結果を見ると、「0回」と答えた人が47%、「1回」と答えた人が32%、「2回」と答えた人が12%と、かなり淋しい結果なのである。
つまり、セックスは男性がリードするものという古い固定観念でやってきたせいか、男性は当然イクけれど、女性はまったくオーガズムを感じていないのである。男性の方は〈今日は最高のセックスだったな!〉と高評価していても、女性の方は「今日はイマイチ、最低ね…」と落差があったりする。これはちょっともったいないというか、残念な傾向と言えなくないか。
尤も、男性のオーガズムと女性のオーガズムはまったく質的に異なったものである。好きな人とのセックスは脳にオキシトシンが分泌され、心が満たされるから、あまりプレッシャーを感じずに――云々と、この欄にはフォローの解説が添えられている。が、何が原因でこうなってしまうのか、オーガズムのメカニズムについて、もっと日本人は学習する必要があるのではないか。ちなみにヨーロッパなどでは、オーガズムは学生のうちに知識として身につけるものなのだ(当サイト「オルガスムを学ぶということ」参照)。
課題はオーガズムのリテラシーを身につけること
コロナ禍においても、あるいはそうでなくても、シンプルなセックス・ライフを掲げた「少数精鋭」主義の傾向は、若者の今のセクシュアリティのトレンドなのだろう。コロナ禍で感染リスクを上げないためにも、不特定多数のパートナーとのセックスを避けることは、どう考えても必須である。こうした時代の流れをとらえて、美しいセックスの在り方を若者達は模索している、と私は真摯に受け止めた。
であるならば、課題は見えてきたのだ。男性優位な古いセックス観を捨て、女性も自ら主体者となり、「性的感覚」を研ぎ澄ませつつ、共に官能のヴォルテージを上げて味わうこと。そのためには、お互いがセックス・ライフについて率直に意見を交わすことがとても大事になってくる。
〈好きな人とセックスさえできればそれで満足…〉と刹那的な段階のメンタリティにとどまることなく、もうワンステップ向上して、「オーガズムの感度を上げる」努力を、双方がしたら良いのではないか。少なくとも雑誌『an・an』の“SEX特集”号では、セックスの感度を上げるための指南書ともなっているから、ぜひ参考にするといいだろう。
ということで、当サイトでもオーガズムに関わること、又はセックスにおけるメンタリティ、フィジカル・トレーニング、コミュニケーションについて、さらなる研究記事をどんどん上げていくつもりなので、若者諸君、これからもよろしく。乞うご期待。